ハリー・クバート事件 上ハリー・クバート事件 上
(2014/07/30)
ジョエル・ディケール

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ハリー・クバート事件 下ハリー・クバート事件 下
(2014/07/30)
ジョエル・ディケール

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評価 4

とても読みやすい。
本にまつわる話なので、彼我の出版事情の違いとかも見て取れるし(エージェントがいたり、最初から出来高払いがわかってたり)、作家が物をかけなくなるジレンマというのもどんどんこちらに伝わってくる。
一方であるのが、ハリーが主張する、一世一代の純粋な愛、がある。
毀誉褒貶の波にさらされるハリー。
それをあくまで救おうとする弟子のマーカス。
このあたりの動きが読ませる。
いったん終了となるが、そのあとがまだある、その真相がなんとも苦い真相だ。

が、一歩引いてみると、なんだか全体にぼんやりと薄い印象がある。
通俗小説の感じすら漂う。
ラストの方で実に意外な展開も起こりはするのだが、そこはわかりにくいにしろ、大富豪のイライジャ・スターンがありきたりの造形のように見える(しかもこの人がなぜ顔のゆがんでいるルーサーを引き取ったかというのは想像がつきすぎる)
思うに、「ノラの実像」というのに焦点が当たっているのならそこに絞ったらもっと面白くなったような気がする、どういう結果に終わるにせよ。
そこにプラス、マーカスの書けない苦悩、マーカスへの脅迫(つまりは犯人からのメッセージ)、(なぜこの小説のこの場面でこの笑いがあるのかわからない)マーカスの母からのうるさい電話、かつてのハリーをめぐる恋の駆け引きとその顛末、嘘をついている村の人々の理由(ここももっとクローズアップしたらと思った)


デビュー作がベストセラーになった新人の作家マーカスは、次の作品が書けない穴に落ちていた。
かつてマーカスを指導してくれたのは、大学恩師で国民的な大作家ハリー・クバートだ。
彼はいつも適切なアドバイスをくれ、そしてそのおかげでマーカスは作家になったようなものだった。
彼との出会いは大学の教室で始まり、ボクシングジムでお互いを切磋琢磨する、恩師であり親友のような存在だ。
ところがそのハリーが30年前に起こった殺人事件の犯人とされた。
15歳のいたいけな少女とみだらに付き合い、その挙句殺人をして、自宅の庭に埋めたのだと言うのだ・・・
この容疑を晴らすため、マーカスはこの村に乗り込んでいく・・・


何よりこのマーカスが結局は事件を元に本を書いている、ということにうっすら疑問が出るのだ。
この村の人が怒るのもわかる、真底ハリーを心配していたら本を書くと言う発想にはならないだろう。
またノラが死んだことでダメージを引きずっているハリーの心持にも乗れなかったのだが、更にラストのシーンでますますこの男になんともいえない感情を持った。
元々、15歳の少女といい大人の交際がなんだかすとんと胸に落ちない。
これってありなのか(村の人の意見のようだが、村の人の意見の方が全うな気がする)。
ノラのあることについてもラスト出てくるのだが、これはなんだろう、とってつけたような感じがしたのだ。

以下ネタバレ
・ハリーは、ノラを殺してはいなかった、これは真実。
殺したのは、トラヴィスと(当時の巡査)、署長。
ルーサーを殺したのをノラに見られた。
ノラも殺す。
それを見たデボラ・クーパーという老女も殺す。

・ノラ、は、精神の病を抱えていた。
前の土地で、火事で母親をなくしたのだが、放火犯はノラだった。
それを心配して、新興宗教のところで父がノラを矯正されるのだが、水に顔をつけるとか体を打つとかだった。
そこから人格が分裂。
死んだはずの母から折檻されている、とマーカスは思って、そう本にも大誤報を書いた。
が、実は、
それは自分で自分を折檻していた、というものだった。

これをハリーは知っていた。
全てを知って愛していたのだった。


・一番のこの話の驚きは、
実はハリーの書いた小説は彼自身が書いた小説ではなく
ルーサーの書いた小説だった。
ハリーは全くこの小説を書かずして、ベストセラーをものにして国民的作家になったのだった。
つまりは悪の起源という代表作は、タイトルどおり、全ての悪の起源となっていた。

これをハリーがマーカスに言わなかったのは
これをしらないでマーカスが本を書いて失敗すればいいと思っていた、心のどこかで。