2014.09.19 逃げる幻
逃げる幻 (創元推理文庫)逃げる幻 (創元推理文庫)
(2014/08/21)
ヘレン・マクロイ

商品詳細を見る


評価 5(飛びぬけ)

ああ・・素晴らしかった。
時代がこれだけ昔の話で、書かれたのも昔(1945年)で、読む前は
(ヘレン・マクロイだからで引っ張り出してきた感のある小説?)
と危惧しながら読んでいたが、全くそんなことはなかった。
時代背景がありながら、それを実に巧く生かした設定、
家庭に何か事情があるらしく何度も家出をしている少年は一体何に怯えているのかという心理の謎、
そこにやってきた最初正体不明の大尉、
ハイランド地方のムア(荒野)の真ん中で再び突如消えた少年は一体どこに行ったかという場所の謎、
加えて魅力的な秘密めいた人達。
全てがかちっと歯車が噛み合い機能して、きちんと謎の解明に向かって進んでいくさまが読ませる。
そして、全てがわかった時の驚きと、そして繫がりの巧妙さと言ったらどうだろう。

人間消失というのがあり、その一方で、殺人があり(一つは密室殺人)、本格推理というところでもとても楽しめる。
一方で、人の心理と言う部分でも、動機が非常に納得いくのだ。
しかも、この真相の一部をわかっていた人が実はいた。
そのあたりもとても魅力的な推理小説だった。
更にスコットランドの歴史、ハイランド地方での出来事のあれこれなど歴史的にもまた、風土的なことも描写が鮮やかでこちらの胸に突き刺さる。
時代背景がここである、というのも大きな役割を果たしている。
この謎解きをするウィリング博士物、というのは初めて読んだが、これからも読みたいと強く思った。

話は、外枠からみればとても単純で
「ある普通の家庭(と思われる)の場所から、何度も逃げ出す少年がいる。
何かに怯えているように。
それは一見普通の家庭、と見られる家庭のどこかにひずみがあるのか。」

と言うことだ。
これに伴い、この地方ハイランドを訪れていたダンバー大尉が話を聞いて不可解に思い謎をとこうとする。
しかしこのダンバー大尉自体が途中まで実に謎の人物であった・・・・


人間消失、という謎が読んでいてぞくっとする感じを与える、これはスコットランドの超自然のことなのか。
また最初に殺害される人物がなぜ殺害されたかが全く意味がわからないのも興味深い。
更には、家出を繰り返す少年の家庭、を見てみると
旦那さんも奥さんも物書きであって、しかし奥さんは通俗小説の書き手で売れっ子で、
片や旦那さんはきちんとしたものを書いているにもかかわらず売れない作家であり
ここに根があるのか、と物語は四方八方に色々と膨らんでいる。
また途中で小出しに出てくる真相、というのもいちいち驚愕するのだ。

ラスト、非常に驚いた。
こういう結果が待っていたとは・・・

以下ネタバレ

・一見この家庭がおかしい、と思われる。
なぜならここから少年が逃亡しているわけだから。
しかも家庭内では
夫が妻より売れてないので、その嫉妬心から家庭内が巧く行っていないかと邪推する。
更に途中で少年がただ一人空襲の中で生き残った夫婦の実の子供ではない、甥にあたる子供だった。
(この話の時に、私は、もしかしたらこの甥は、他の子供を殺して自分が生き残ったのではないかとうっすら思った。)

が、話は更に複雑で、
実はダンバー大尉が探していた、逃亡捕虜であり、ヒットラーの教えを一身に受けた少年兵であった(なので実年齢は甥より高い)
自ら意識不明の「甥」になりすまし、その家に放火して、茫然自失の振りをして成りすましたのだった。
つまり、少年自体が(もう少年の域を脱しつつあるが)問題であったのだった。

以下伏線
・小数点の点の打ち方(ヨーロッパではカンマ)
・最初にダンバー大尉に会った時の格闘技の見事さ
・爆弾が落ちたのは疎開先の子供がいた建物と、捕虜収容所だけだった、と彼自身が証言
・少年ジョニーが描いた図が、本当の甥が学んだことのない電子工学の基礎となるオームの法則の図だった
・徹底した差別教育を受けているので、自分を引き取ってくれた奥さんは徹底的に軽蔑していた(女だから)