紙つなげ!  彼らが本の紙を造っている紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている
(2014/06/20)
佐々 涼子

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評価 5(飛びぬけ)

この本の最後のところにこういう記述がある。
「使用紙
本文:オペラクリームHO四六判Y目58,5kg(日本製紙石巻工場8号抄紙機)
口絵:b7バルキーA判T目52kg(日本製紙石巻工場8号抄紙機)
カバー:オーロラコートA判T目86.5kg(日本製紙)
帯:オーロラコート四六判Y目110kg(日本製紙)」

このただの単純な記述に涙が溢れ出た。
ここまでの苦闘がこの本に描かれているから。

・・・
本を買う。
その本を読む。
内容が面白い(もしくは面白くない)、装丁が素敵(もしくは素敵ではない)、活字の大きさとかフォントの違い、帯もしくはタイトルに惹かれて読んだらその通りだった(もしくはそれとは大違いだった)、感想を見たら自分と同じ意見が沢山あった(もしくは違っていた)。
一連の本を読む作業はほぼこんな感じだ。
そして、自分は「本を読む」ということをなんて当たり前と思っていたのだろう。
それを突きつけられた本だった。
当たり前のようにしてそこにあると思っていた紙。
その紙に一度でも思いを馳せたことがあっただろうか。
それは、めくりやすい紙、とか、色めがちょっと凝った紙とか、コミックと文庫本の紙の違いとか、そのあたりはぼんやりとは思っていた。
けれど、その紙が、東北で造られていると言う事実を全く知らなかった。
どころか、なぜ東北なのか?という基本的なことすらこの本を読むまで思いもよらなかったのだ。

この本は、3月11日の津波により、壊滅状態になった日本製紙の石巻工場の再生、の物語でもあるけれど、もう一つ、震災で美談ばかり伝わってきていたその裏の話という側面も捉えている。
海外から、こんな時にも冷静だった日本人と賞賛された話ばかりが一人歩きしているけれど、一種の無法地帯になったこの場所、どんなに辛かったことだろう。
全員が暴徒になっていないで、一部の人の暴徒化なのがまだ救いであることとその人達がまだ人には手を上げていない(とこれを読む限りでは思える、そしてそう信じたいがこれもまだまだ裏の話があるのだろうか)のが救いだ。
この中にまともな人達が多かった、というのもまた暗い中の光になる。
(にしても政府は一体何をしていたのだろう、一週間もの間!
ヘリコプターとか飛ばせなかったのか?)
震災蝿の話も強烈で、これもどんなに過酷な作業だっただろう。

工場の再建の方に目を転じると、一丸となってなんとか復興しようとする社長以下の指揮の盛り上がりが見える。
なんとか紙を絶やさないようにしよう。
なんとか自分達の手でもう一度工場の煙を上げよう。
この心意気が男達を動かしていく姿に心揺さぶられた。
きれいごとではなく手作業でやらなくてはならない部分が多く、最後にある写真を見るとよくここまで再建したと思える。
更に非情なのは、自分達自身も被災者と言う人達が実に多いのだ。
その中よくぞ再建した、と言わざるを得ないだろう。

野球部の話も心に残る。
あの早実キャプテンの姿は覚えていたのでここにいたのか、という驚きとともに、運命というのをとても感じたのだった。
また震災後、出版社が紙を頼む話や(出版社も一丸となっている)、この本を出そうとした早川書房の話や、ここもまた感動的だった。

・・・
作者の本を初めて読んだけれど、感情移入しすぎずに(多分何度も話を聞きながら泣いたと思うがそれは一切出てこなかった)、淡々と書いていくレポの姿勢に非常に共感した。
こういうノンフィクションの書き方、私は大好きだ。