アイネクライネナハトムジークアイネクライネナハトムジーク
(2014/09/26)
伊坂 幸太郎

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評価 5

相変らず楽しい。
会話のやり取りにセンスがありユーモアが含まれているので、どこを切り取っても読ませるのだ。
普通の人達の普通の日常が、こんなにも切り取り方によっては面白い、ということがよくわかる。

ボクシングの話で始まり、これが非常に重要な狂言回しになっている。
それぞれの話が結構がっちりと結びついている。
ここにこの話が繫がるのか!ここにこれが来るのか!という喜びがあるのだ。

・・・
アイネクライネは、冒頭にボクシングの話が出てきて、それを皆が路上から見ている。
重要な試合らしい。
歩いていく人にアンケートをしていく一人の男がいる、なかなか皆が立ち止まってくれないので困っている。
この主人公はITの会社に勤めているサラリーマンであって、いつもは統計をネットでやっているのだが、先輩の藤間という男の妻が家を出てしまって動揺したことから、データに支障を来たしている。
また主人公の友人宅も出てきて、変わった友人と大学生の時に恋愛に落ちていまや子供がいるかつてのマドンナも出てくる。
そして、ここに一人、アンケートに答えてくれる呼び水となってくれる女性が出てくる。
彼女のストラップはあるもので、それがこの話の中で最後まで大切な役割を担っている。
男の心の動きが可愛らしい。

ライトヘビーは、笑った笑った、最後のところで、心地よく騙されて。
美容師の弟を紹介してくれる、と仲良しの美容師に言われその日から電話がかかってくるようになるのが・・・
弟が何をしているか誰も話してくれず(本人も美容師の友達も)じむしょくということしかわからない。
周りは、病院にいるのではないかとか、まずいことで刑務所には行っているのではないかと勝手な憶測をしている(私もそう思っていた)
しかし→ジムに通っていた、というじむしょく、であって、彼こそが最初の話のボクサーであった。
途中まで礼儀正しく気弱っぽいのでボクサーとはまさか考えない


ドクメンタは、この中で一番好きで一番印象深い話だ。
離婚寸前の1の話の藤間が出てくる。
彼は仕事以外はだらしなく、通帳の記帳すらしていない。
奥さんにそこを嫌がられている。
5年に一度、ひょんなことから知り合った自動車の免許更新の場所で会う女性がやはりだらしなく更新すら期限ぎりぎりにならないとやらない人間と話してわかる。
そして5年ごとに会って、彼女の身の上も彼の身の上も変わってくるのだった。
通帳記帳がポイントだ。 

ルックスライクは、父に似ていると言う話が基本だ。
この話、作り方がとても巧妙にできていて、うっかり読んでいると、え?と騙されるのでそこも快感だ。
これも大好きな話。
英語の先生がいて、和人という男子高校生がいて、和人が同級生の美少女に自転車のシール盗難を見張ろうと持ちかけられる。
そして一方で、レストランで難癖をつけられているウェイトレスを「この人の父親を知ってますか」の機転で救ってくれた人と、この女性の話が描かれて、ラストでぱっと結びつく→時制が変わっていて、このレストランの女性は救ってくれた人と付き合うが結婚せず、後に別の人と結婚して英語の教師になる。そして同じ言葉で父親の息子を救った、それが和人。顔が似ているのでわかっていた。
そして父親と再会する。ちなみにこの時の美少女は、1の話に出てくる、学生結婚をした二人の子供。だから1から3は年月がたっている。

 
メイクアップは高校時代いじめられていた、結衣という女性の物語だ。
女性同士のかなりの陰湿ないじめ。
そのいじめの張本人が、結衣の会社のCMを取りたくてプレゼンしに来て、しかも彼女の合コンに結衣は誘われることになる・・・
単なる復讐の物語ではなく、いかにも伊坂幸太郎らしく、復讐ではなく不幸が予見されるような終わり方で話が駆け抜けていく。→合コンで他の子を貶めることで自分の標的の素敵な男性をゲットしようとしたかつてのいじめっ子の女性の姿があり、相変らずだということがわかる。
しかしその素敵な男性は妻子もちで、女性を騙すしようもない男であった、というのがひょんなことからわかる。

そこがとても読んでいて心地よい。
佳織が叫ぶ、憎まれっ子世に憚る、で何度笑ったことだろう。

ナハトムジークは時制が入り組んでいる。
明確に現在、そこから9年前、19年前と出してあるのでうろうろはしないが、この話とこの話がこう繫がるのか、という喜びがある。
意外なところに接点がある人達。
そしてのちになってこの人がこうなるのだ、とわかる喜び。
そういうことに満ち満ちている。

・・・
不思議な佇まいで、その人にぴったりの楽曲を出してくれる占い師のようなさいとうーさん(斉藤和義のことだったのか!と後書きを読んで気づいた次第)
耳の悪い弟と彼のことを案じている姉
かつていじめられた同僚に一緒になって怒ってくれている佳織
と、多様な人の面白さも尽きない。

この小説、軽快な映画になったらどんなに楽しいことだろう。
下手なやり方をすると、単なるどたばたになってしまうだろうけれども。
また、これを海外に持って行って映画にしたら、と夢想した、これもかなり上質のユーモア映画になりそうだ。