2014.11.18 離陸
離陸離陸
(2014/11/21)
絲山秋子

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評価 5

非常に私はこの小説を楽しんで読んだのだった。
謎は謎として残る。
一体・・・とも思う。
でもミステリではないので、これで放棄でいいではないか。
ここまで小説として十分楽しませてくれたのだから。

・・・
もしこの小説が、絲山秋子という名前を伏せて出されたとしたら、一体何人の人が彼女の作品だと思うだろう。
もしかして村上春樹といわれてもわからないような気がする。
全編にちりばめられた謎、会話の妙、一人の人間の生き方、そういう全てのことが「小説」として巧みに描かれている。
しかも、「離陸」という死へのメタファーの言葉の使い方の素晴らしさと言ったらどうだろう。
何度も飛行機場面が丹念に描かれる。
それは、飛行機の離陸そのものも描かれているが、その前後のことも比較的執拗に描写されているのだ。
これは死の前後と考えれば、とても納得がいく。

冒頭のダムの場面から心奪われる。
エリート街道の土木系の男佐藤が、八木沢ダムにやってくる。
そこで須藤という印象深い技術屋と親交を深める。
ところが、その勤務地のダムに不思議な外人イルベールがやってくる、佐藤の大学時代の彼女の行方を捜しに。
そしてそのあと、男はパリに赴任することになるのだ。
そしてパリで一生の伴侶を得るのだが・・・

全編に通しての謎は、「過去に関わった女性(女優とイルベールには呼ばれている)が忽然として姿を消した、一体どこに行ったのか」と言う謎だ。
そして後半に至って、イルベールがなぜ彼女を探しているかというのまで明らかになっていく。
ところが明らかになっていくのはここまでで、そのあとは実に幻想の世界に入っていく。
昔の文献に、その彼女が出てくるような文章があり、それが偶然発見される。
あるビデオに彼女が映りこんでいる。
また佐藤が九州に赴任している時に、偶然ばったり飲み屋のあたりで会う女性も彼女だ。
一体彼女は何者なのか。
時を越えていくタイムトラベラーなのか。
また途中で佐藤の周りで友人の殺人事件が起こる、これは一体何の予兆なのか。
更に、日本に伴侶と帰国してからも「離陸」は起こり続ける。
これは一体何に操られているのか。

不可解な話で、それが全て解き明かされたわけではない。
しかし、佐藤の周りで「離陸していく」人達があまりに多い。
この中で離陸から一番遠いのは、実は盲目の妹の茜、とパリのブツゾウであると思った。
この二人の場面のみトーンが違い、きらきらしている感じがする。
ここだけが生きているのだ。
あとは沈殿の中にいるのだが・・・・(佐藤にしても)