連城三紀彦 レジェンド 傑作ミステリー集 (講談社文庫)連城三紀彦 レジェンド 傑作ミステリー集 (講談社文庫)
(2014/11/14)
連城 三紀彦

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評価 5

面白い。
再読に耐えうるミステリというのはこういうことを言うのではないだろうか。
どれも短編で無駄がなくしかしきちんと叙述ミステリになっていて、後から読み返すと(ここがか!!)という驚きに満ち溢れている。
反転に次ぐ反転、万華鏡のように変わる真実、その様を見ているだけでわくわくする。
またまったく別の方向を考えていると(誘導されていると)、それが最後にくるりと返される技は素晴らしい。
今回、4人の作家達が選んだ短編集なので、それぞれの作品の最初に作家の言葉が書かれていて、そこもまた読み応えがある。
更にラストには綾辻行人と伊坂幸太郎との連城さんをめぐっての対談がついていて、なんて豪華な一冊なのだろう。

どれも非常に良かったのだが、好みと言うことで言うと、遊女の切なさとラストのある部分の意外性があった桔梗の宿、日記と言う形態を思う存分駆使した依子の日記、あたりがとても好みだった。
エス君への手紙、はある部分が完全に目くらましになっている、そこがとても面白かった。

・・・・
依子の日記・・・・・ある一人の女性の日記があり、そこには平穏な夫との生活にある一人の女性が入り込んできた、そしてその女性が重荷になってきた夫婦とも・・・という苦悩が描かれている。
この日記がずうっと妻の日記と思って読んでいると、ラストに実は殺されたのが、妻であって、妻を名乗っているのが入り込んできた女であって(夫と共謀している)、日記もフェイクのためにというのがわかる。







眼の中の現場
妻の浮気相手から突然の電話と訪問、
彼は何をしたいのか。
しかも妻は、癌を苦にして飛び込み自殺をしている、電車に向かって。
ところが、話を聞いているうちに、虚があり実がありそこのあたりが混沌としてくる。

そもそも癌はほんとうだったのか。
この夫が医者なので、そこで嘘をついたのか。
浮気相手からの話は全てほんとうなのか、と思っているあたりで、虚虚実実の駆け引きが始まる・・・




桔梗の宿・・桔梗の花を持って殺された人間・・・
それを追っていく「眼鏡をかけた醜い」刑事が犯人探しに娼家を訪れる。
そこでとても幼い娼婦に出会うのだった。
彼女は犯人を知っているらしい。
そして第二の殺人が・・・
この話、醜いと思っていた刑事が、実は眼鏡を取るといい男だったという事実が最後の方でわかる(手紙の前の地の文章でわかるところが憎い)。
そしてこの幼い娼婦が彼に恋をして、八百屋お七のように彼を呼び寄せるためにもう一つの殺人を行ったというのがわかっていくのだ。
この切ない恋心がいとおしい、そして自分の容姿に自信のない刑事がその恋情を汲み取れなかった思いも滲み出ている。


親愛なるエス君へ
ある年代以上の人は、調べずともこのエス君の話の衝撃を覚えているだろう。
そしてその禁忌とも言うべき人肉食いの話、実に意外な方向に流れていく衝撃がある。

誰しも、この話を読んで、フランスでの会食の場面のこの少年の衝動と言うところも読んで、
「この男は人を食べたい衝動に駆られている」
と思うことだろう。
小さい時にも、そのことを思いつめていたのだと。
ところが、
最後の最後でわかることは、人を食べたいのではなく
「自分を食べてもらいたい衝動」
だったのだった。
それが徐々にでなければならないので(食べるところを見ることが出来ないので)
陰惨な体のばらばらの手術と言うことになる。



花衣の客
異形の愛の話。
寡婦となった母のところに来る妻ある男性が通ってくる、ひそかに。
そして母は、茶室である犯罪の一歩手前まで行ったのだった・・・・
そしてそんな彼を娘がひそかに慕っていた。
しかし母が死んで、彼のお世話をしていたものの、全く手を出そうとはしない。
男性は父のような心を持っていたのだろうか・・・・
母を愛し続けている真の男なのだろうか・・・

この話で、男性の妻が乗り込んでくる場面がある。
若作りの着物を母に投げつけて行って、母がそれをほどいてまた着ているという場面、
寝言に「妻以外の女性の名前」を呟いていると言う場面、
何よりも日記に「人としての道を踏み越えている」と書かれていると言う場面。
ここがとても叙述的に深くて、誰しも、これは茶室にいて関係を結んでいる「内縁の妻」だと思わされる。
「人としての道を踏み越えている」、も、不倫とという事実があるのでそのことかと思わされる。

実はこの男はずうっと子供の代わりに母を抱いていたのだった。
まだ子供の女の子に愛を見たのだった。
なので、「人としての道を踏み越えている」、妻以外の名前はその子供の名前、妻はそれを知っていたので若いつくりの(子供用)の着物を持ってきた。
そして母もまた知っていて苦悩していたのだった。


母の手紙
死に際した母から息子への手紙。
自分がなぜ息子の妻に、かつての自分がいじめられたように姑としてのいじめをしたのか。
そのことが綿々と綴られる。

今まで秘密にされていたが、息子は自分の子供ではなく、夫の愛人の子供であった。
でも目をかけて大切に育ててきた。
息子が結婚した女性は、郷里で隠れて産み落とした女の子だった、だから実子。
実子に甘くしないで、継子に温かくしたかった、実子だから可愛がったと息子に思われないように。
それだけ息子に対する愛情は強かったのだった。