2014.12.15 鳩の撃退法
鳩の撃退法 上鳩の撃退法 上
(2014/11/13)
佐藤 正午

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鳩の撃退法 下鳩の撃退法 下
(2014/11/13)
佐藤 正午

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評価 5

面白かった。
うねるように話が進んでいく。
ここかと思えば、またあそこ。
螺旋階段をぐらぐらと上がっているような気すらした。
こういう物語って、途中で(どうでもいいじゃん)と思ったら読むのが辛くなるのだが、どうでも良くなく、次は?何だ?何が問題なんだ?とページを繰らせる力がある。
作者の提示してくる「次は何だろう?」にもおおいにわくわくさせられたけれど、プラス、そこはかとないユーモアとか諧謔とかペーソスにも満ち溢れている。

上巻で提示されたことを考えてみても、さっぱりわからない。
冒頭での幼稚園での送り迎えのヒトコマ、古本屋の房州老人、ドーナツ屋での悶着、沼本店員(ぬもとと呼んでくれ店員)、キャリーバッグの中身、デリヘルの運転手でかつての作家だった男の独り言、本の栞代わりの一万円札、郵便局員晴山青年、偽の一万円札、繰り返し出てくる古本のピーターパンの本(とても重要だ最後まで)・・・・

何よりもこの中でさらっと語られているが、
「失踪した三人の家族」と「失踪したデリヘルの一人源氏名高峰秀子」が犯罪的だ。
あと偽札らしい一万円札、というのも犯罪の匂いがする。

この話、上巻ではどこが犯罪なのかというのがうっすらとしかわかってこないところにも妙がある。
うねうねしている話を読んでいて、たまに鳩と言う言葉は出てくるものの、タイトルの意味すらわからない。

・・・・
ところが下巻になっていろいろなことが繫がってくる。
そもそも、この元小説家の男の日常とこの小説とが実際に起こったことを基にした小説、というややこしい構造になっていることもわかる(途中で編集者も出てきて、入り乱れていく)
事実を元小説家が小説にして書いている、そして同時に女たらしの元小説家の心情も縷々として描かれているという誠にこみ入った話になってるのだ。
そして、ある一日にあったことを、全て津田が書いているかというと最初に全ては提示していないのだ。
ここらあたりも混沌としてくる。
この日に何があったのか、というのが(特に雪の2月28日)小出しにされてくるさまが、うねうね状態を作り出している。

偽札のキャリーバッグを持っているがゆえに、「本通りの裏」の人に(これが倉田でありその親友にはドーナッツ店であった幸地秀吉が絡んでいる)狙われている風の津田。
怯えながらも、東京に出て行くことになり、そこでバーテンをすることになる津田。
そこを紹介してくれたのは、そもそも津田が偽一万円札を使う羽目になった「床屋のまえだ」である。
そして中野の店のバーテンダーをしていると、そこに編集者が現れ(津田の作品のファンであった、偶然)、そこにまたある意外な人物が意外なものを持って現れる・・・


軸は二つで
・失踪した家族をめぐる物語
・元小説家の転落した、お金に右往左往する人生の物語
そこに裏の人達のやり取りが加わっていく。

房州老人が元小説家で今はデリヘル配達をしている津田に託したキャリーバッグの中には3000万円を越えるお金が入っている。
勿論お金のない受取人の津田はそれを使いたい。
ところが使ってみたら(しかも床屋のまえだと言う場所で)、それが偽札というので問題になった。
床屋の口の固さにより津田からの一万円札とは知られなかったのだが、ではもらったキャリーバッグの中の一万円札はすべてが偽札なのだろうか。
しかもこの前に偽札事件は起こっていて、それは房州老人があるホテルで使った一万円札なのだ・・・


元小説家の津田が最初何かを語るときに「全て」を語っていないところもこの話をますます混沌とさせている。
あとからぽろっとその日の状況が出てくるのだ(これが、同時にこの小説を書いているというメタ構造にもなってるのだが)
本当にその日には何が起こっていたのか。
これがぼろぼろとあとから出てくるのだ。


以下ネタバレ
・鳩は偽札のこと。
巨大な偽札組織がある、背後に。
だからなんとしても偽札を取り返したい、まだ出す段階ではなかったのだから。
それを、秀吉が妻の妊娠を告げられた動揺から、ミスをして、従業員の手に渡ってしまう。
全てはここから始まる。
(偽札の二枚は警察に摘発されるが(一枚は房州老人がホテルで使い、一枚は津田が床屋で使った。)真相はわかっていない、警察に。
そしてあと一枚は、コインロッカーに入れたままにしてその鍵を津田が倉田に送ったキャリーバッグの中に入っている。
そして倉田は偽札一枚を回収したあと、あとは寄付するのだった(この寄付の相手先から津田は挨拶を受けお金の行方をはっきりと知る)

この中で恐れられている裏の世界の倉田もこの組織に属している、また親友(というかゲイ相手だろう)の幸地秀吉もまたそうだ。

・まず失踪した幸地秀吉一家は三人家族。
妻と幼稚園児の娘がいた。
しかしこの娘は本当の子供ではない、結婚前に妻がある男との間に出来た子供だ、
それを知って秀吉は受け入れた。
しかし妻は再び郵便局員の晴山青年と不倫をして妊娠する(そこが冒頭部分に繫がる)

幸地秀吉は偶然ドーナッツ屋で元小説家の津田に出会い、ぽろっと
自分の子供でないこと、今の子供が、というのと
子供ができるはずがない、ということを漏らす(つまりは性的不能者か、パイプカット者か、またはゲイ(これが一番可能性があるが最後まではっきりとは書いていない)
津田はこれから全てを類推していく。

このあと、幸地秀吉は自宅で妻から妊娠を告げられる。
動揺して、偽札を金庫に入れる倉田からの指示を雑にする(ここがとても重要、金庫からお金を三万円貸して欲しいとこの前に言って来た従業員のことをさっぱり忘れていたから。

結果的にここから偽札の三万円を出したのは(以下偽札の三万円の行方)
スピン(秀吉の経営の店)の佐野(女)→ 遊び人の大学生→大学生がデリヘル嬢を呼ぶ(これが高峰秀子)→高峰秀子(津田に借金があったので返す三万円)→津田(無防備にピーターパンの本に三万円を栞代わりに挟む)→奥平みなみ(子持ちでデリヘルで働こうとして、津田が大雪の日に親切にも家まで送った女性)→房州老人(津田は房州老人に借金があったので本に挟まれていた3万円を房州老人は受け取る)→房州老人がホテルでデリヘル嬢に偽一万円札を使う→老人は偽札騒ぎが自分だと気づいて他の偽一万円札二枚と真札一万円札の三枚にして、キャリーバッグの自分の金の上に置く→津田に遺品としてこれが来る(そして津田はこのうちの偽札一枚を床屋で使う、そして全てのキャリーバッグの中のお金が偽札だと思い込む。しかし実際は、一枚を除き房州老人の遺産でありきちんとしたお金であった。)

・幸地一家は、別の場所に逃れている(妻の不倫相手はさりげなく自動車事故で殺される。子供の父親も実は殺されていた。)
秀吉は素性を隠したまま、中野のバーテンダーをしている津田の元に現れる、ピーターパンの古本を持って。

・古本に栞代わりにお札を入れる。
この津田の癖が、偽札を世間に出す、と言うところに繫がる。