2015.01.18 夜の木の下で
夜の木の下で夜の木の下で
(2014/11/27)
湯本 香樹実

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評価 5

深く心に染み渡ったのだった、温かい白湯をそっと飲むような気持ちにすらなった。
日本の物語だけれど、ちょっとフランスの小品を読んでいるような趣まである。
名前を海外のものに変えて場所も変えて覆面で出したなら、日本の物語とは思えないだろう。

・・・
どの話も地味ながらいい。
過去の話と現在の話が巧みに入り混じり、人生の悲哀喜びを焙り出してくれている。

冒頭の緑の洞窟は、双子の弟との秘密基地を軸にして、家族のその時のあり方、病弱だった弟を滑り台から突き落としたときの思い、その時の父の怒りよう、続いた落としたその腕の痛み、なんとか回復しようとしている父との関係が永久に回復しないまま公園が消滅した日、そして現在。
どこもかしこも鮮やかに切り取られている日常の風景だ。
子供の頃のある種の痛みのようなものがこちらにどんどん伝わってくる。

焼却炉、は、ちょっと特殊な状況の高校時代の二人の少女の物語だ。
彼女たちが燃やしているのは、生理用のナプキンだ。
それが燃えているのを見ながら何かを語っていく、その何かは、夢であったり近場の将来であったり、今の悩みであったり。少女であることのもどかしさと同時にそこに孕まれている希望。
それが燃えていくナプキンに象徴されているのだ。
そしてこの物語それでは終わらない。
二人の少女が再会し、また違う位置で再会し、というようにお互いの将来を見ているのだ。
あの時の焼却炉の前の二人の会話がなんとも心打つ。

私のサドル、はちょっと笑える。
笑いながら、はっとしたりする。
サドルって確かによく見ると顔のように見えてくると改めて思った。
サドルが話しかけてきてくれて、自分の心の中で好きだった男の子が年上の先生とある事件を起こしてしまう、ということに泣いている女の子を慰めてくれる場面がとても微笑ましい。
あり得ないんだけど、ふっと笑ってしまうような一場面。
そしてサドルもなかなかいいことを言うのだ。
偶然であった男の子に最後に女の子が行った言葉を褒めてくれる。
そしてこの話もまた「未来」が来ている。
あんなに泣いた女の子、あんなに切なく思った女の子は成長して・・・
ここもまた人生を思ってぐっときたのだった。

リターンマッチは、いじめの話なのにそして復讐の話なのに、最後全く暗いのに、
救いがあるのは、途中である一人の復讐されようとしたいじめっ子が、味方になっていくからだ。
屋上に呼び出されながら、柔道を教える羽目になった語り手がいて、彼も教えているうちに自分の技が光ってくる。
そして柔道をマスターしたいじめられっ子は校内でも一番たちの悪い男の子を屋上に呼び出す。
しかしそのあとお母さんに見つかって・・・・
この話、ラストの反転が強烈だ。
ここに落ちるか、話が、と思った。
そしてどこにいるのだろう、この子は。

マジックフルートは一人の男の子が両親の離婚により祖父のところに預けられたと言う話だ。
物集めのマニアだった祖父。
その家には普通に幽霊が出没する。
暇だった男の子がピアノを習いだし、そこで厳しいピアノの先生のお姉さんと知り合う。
不思議なお姉さんとのふわっとした交流が、いつしか様相が変わってくる。
橋の欄干を歩く少年の姿が目に焼きついている。

夜の木の下で、も心に残る短編だ。
不遇な境遇の姉と弟。
弟が事故にあい瀕死の状態にいるときに、姉が過去を回想する・・・そこには二人が幼い時に味わった全てが詰まっていた・・・帰ってこない父親と精神科に出入りする母親・・・そして猫を捨てろと言われてうろうろした日々・・を・
猫の入っている箱を何度もあけたりする姉弟がいとおしい。
そして現在の瀕死の状態の弟を案じる姉、このまま植物状態なのだろうか・・・
ラストのほうでの夢の場面も実に鮮やかで美しい。
そしてその美しさの先にあったものは・・・微かな希望の光であった。