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サンドリーヌ裁判 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)サンドリーヌ裁判 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)
(2015/01/09)
トマス・H. クック

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評価 5

法廷物、を想像すると違うかもしれない。
いや、まさしく法廷物ではあり、ずうっと法廷が続いていくミステリではあるのだが・・・・・

それよりも人間の心の綾とか、人間の本当の気持ち、とか、夫婦の考えていることとか、
過去の美しい情景とか思い出とか、
そういう人間の心理を描いたミステリだと思った。

・・・・・・
小さな町の大学教授の男サミュエルがいかに皆に愛されていないかというのが冒頭のほうからよくわかる。
そして読んでいて実に今現在は嫌なやつなのだ、人を見下し自分の未完成の本は棚に上げ(作家になりたいという夢があった)、同じ大学教授の妻サンドリーヌに本を書け書けと言い続けている。
そんな中、サンドリーヌが死ぬのだが、これがサミュエルが殺したかどうか、というのがこの裁判だ。

裁判中、よくサミュエルはぼうっとする。
ぼうっとした挙句、当時の思い出に浸ってにんまりして弁護士にたしなめられたりする始末だ。
この思い出部分の夫婦になる以前の二人が、いかに愛し合っていたかいかに何かの希望に満ちていたかというのがこちらにぐっと伝わってくる。
サンドリーヌは人が振り返るほどの美貌と知性の持ち主だ。
そして性格的にも人と普通に交わりそつがない。
誰からも好感が持てる女だ。
かたや、サミュエルは冴えない男だ、なぜ自分をサンドリーヌが選んでくれたかというのがずうっとわからないような男だ。
それが、段々色々な思い出からわかってくるのだ、みんなの証言からサンドリーヌがどう自分を思っていたか。
どの部分に失望したのか。
どういう風にして欲しかったのか。
そのあたりが回想とともに彼はわかってくる。

しかもサミュエル自身がこれだけの妻を持っていながらある取り立ててぱっとしない女性とダブル不倫をしていたということさえわかってくる。
しかもあろうことか、サミュエルは自分を棚に上げ、サンドリーヌも不倫をしていたのではないか、と疑心暗鬼に駆られている。
結果としてサミュエルは、サンドリーヌからの思いというのをしっかりと受け止めていくのであった・・・・・

(351ページ7行目文字脱落。
わたしはやっていなんだから→わたしはやって「い」ないんだから)