2015.02.17 賢者の愛
賢者の愛賢者の愛
(2015/01/09)
山田 詠美

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評価 4.4

タイトルですぐに谷崎潤一郎の「痴人の愛」を連想する。
小説の中にも何度もこの話が引き合いに出される。
どころか、「女性」に直巳(なおみ)と名づけられた「男の子」がいる。
書き出しからとても巧い、話も巧みでぐいぐい詠ませる力がある小説だ。

ねじれている愛。
復讐する愛。
それがこの小説のテーマだ。
勝手に「誰かを育てようとしている」と言う話だと思っていたが、それとは違っていた、と思う。
直巳は決して調教されているわけでもなく、また直巳が反逆している様子もない。
小さい頃から知っている直巳を自分の家に泊め、ひいては性の手ほどきをする、それを調教と言うのなら調教なのだろうが・・・・。


真由子。
自分の裕福な家に半分下宿しているような諒一兄さん(と呼んでいる)に憧れの気持ちを持って育つ。
一方で、真由子の父親には溺愛されて育つ。
この家の隣に引っ越してきた一家がいて、二つ年下の百合と真由子は仲良くなる。
いわば親友のように、百合は真由子の家に入り浸るようになるのだ・・・そして・・・


真由子がなぜ22歳年下の直巳を調教しようとしているか、というのが徐々に解き明かされていくところはスリリングだ。
真由子のまず初恋の相手の諒一がからむ。
これだけかと思っていたら、ラスト別のことも絡んでいるのだ。
親友百合の子供、直巳。
名前を決める時に真由子が即座に直巳がいい、といわば名づけた直巳。
時系列で直巳がどのように真由子に傾倒していくかというのがつまびらかになっていく。

ただ・・・
直巳像が私にはあまり見えてこなかった。
なぜ彼の側は真由子に惹かれているのか(性的なことだけではないと思うので)
彼の側の強烈な何か、があればもっともっと心に残った作品になったのだと思った。
あとここは全く私の好みだが、文体が・・・ました調でずうっと始まって終わると言うのもどうだろう。
真由子側からの描写のみ、なので、そこもちょっと物足りなかった。
別々の人からの描写があったら厚みが増すのに。

諒一もいまひとつわからない。
この人の心の内、というのも見えてくるようで見えない。
小説の中で、真由子の心は思い切りわかるし、百合の崩壊した家庭からの脱却と彼女の強烈な嫉妬とちょうだいおばけになったいきさつなども痛いほどわかる。

以下ネタバレ
・父親も百合と寝ている(多分百合が誘惑した)というのがわかって真由子は衝撃を受ける。
直後父親は自殺。
百合が父親を殺したようなものだ。

・百合は諒一と一回だけ寝て、(なんで諒一はこれに引っかかった?というのもよくわからないが)妊娠し結婚に行き着く。
そして生まれたのが直巳。

・一方で百合の家は、成金の代名詞とともに語られ、家庭は崩壊し形だけの空洞の家が残されている。
両親は子供たちを顧みず、掃除もせず投げられていた家の中で、弟達の一人は家のプールで事故死。
百合そのものもそこで絶望感に浸る。
そして隣りの真由子の家、には百合の欲しいものが山のようにある、物も人も。