ウィンブルドン (創元推理文庫)ウィンブルドン (創元推理文庫)
(2014/10/31)
ラッセル・ブラッドン

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評価 5

なんて爽やかなスポーツ小説だろう。
そして時節柄、錦織選手をどうしたって思い出す。
周辺の選手の顔もずらっと浮かんだりする。
読んでいる間楽しいし、最後の最後までどうなるだろう・・・とどきどきしながら読み進めた。

人物造形で、若き二人のテニス界のプリンスがとても好感が持てるのだ。
片方はオーストラリア出身のキングで、家庭にも恵まれテニス人生も順調だ。
キングの屈託のなさ、育ちのよさ、というのが前半とても描きこまれている。
そしてキングのみならず、彼の家族の温かさもしみじみと心に残る。
片方は、ソ連のテニス王者ツァラプキンで彼がオーストラリアに亡命するところから話は始まる。
時代が時代なので、亡命に政治的意図?とか色々周囲で思われるのだが、彼は純粋にテニスをしたい!という思いでオーストラリアにいることになるのだ。
辞書を持ってまだ英語も流暢に話せないツァラプキン。
でもテニスは抜群に巧いツァラプキン。
17歳の二人の少年がお互いに一目でお互いのプレイに魅了される場面など読みどころ満載だ。

このミステリ、バランス的にはとても面白い構造になっている。
二人がウィンブルドンの決勝戦で対決する、ここがメインなのだが、ここに至るまでがとても長い。
長いがそれは決して読むのが苦痛ではなく、むしろここがあったからこそ、決勝戦のツァラプキンの懊悩、キングのいらっとした感じ、なぜだろうという疑問がくっきりと浮かび上がってくるのだと思う。

大胆な犯罪計画が陰で練られていて、決勝戦の最中にそれはそれは暗躍している人達が多い。
その姿もまた克明に描かれている。
最後のところのちょっと前であることで助かる。
それがまた感動的なことで助かるのだ、二人の友情の証だ、ここも最初からずうっと読んでいると胸熱くなる、これが命を守ったのかと。
最後、なぜこんなに試合が長引いたかというのがつまびらかになった時の若者二人のやり取りが気が利いていてなんともいとおしい。