2015.03.29 太宰治の辞書
太宰治の辞書

評価 4.4

思ったのと違った、というのが印象だった。
あの空飛ぶ馬を思って読んでいるものだから、一体いつになったら日常の謎が出てきて、一体いつになったら円紫さんが出てくるのか!と思っていた。
が、この話、もう大きくなっちゃった「私」なのだ。
あの初々しいなりたての大学生の「私」でもなく、最終学年で卒論に追われる「私」でもなく、もう中学生の子供がいる(当然旦那もいる)本好きの中年の「私」なのだ。
もうここからして悲しかった、正直なところ。
そして「私」は、水を飲むように本を読む人、らしく、小さな出版社に勤めている。
そこで小さな謎が出てきて、それが文学の謎で、謎解きに一歩を踏み出していく。
ここにはもう指南役の円紫さんもいなくて、彼女が一人で掘り起こしていくのだ色々な人の手を借りながら。
ラストの話のみ円紫さんが出てきてそれはそれは懐かしい。
正ちゃん!!これまたお懐かしや!!

話そのものは面白い、太宰の話のロココ料理の話とか、江藤淳の芥川論の話とか、朔太郎のオダマキの花の話とか、文学好きだったら、そうだったのかーとわくわくするような楽しさがある。
ただ、これらの話を「私」と結びつけるのはいかがなものか。
これはこれで、作家本人の随筆とかエッセイでいいのではないか。
そのあたりが実に腑に落ちなかった。