裏面: ある幻想的な物語 (白水Uブックス)裏面: ある幻想的な物語 (白水Uブックス)
(2015/03/07)
アルフレート クビーン

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評価 5

出だしから震えるほど面白い。

ある画家の男の元に学生時代の友人から奇妙な誘いが来る。
それは、友人が巨万の富を得て一つの場所を作った、夢の国だという。
それはヨーロッパから遠く離れた中央アジアの辺境の遠い所だ。
ここに特別に招待するので、是非来て欲しいと。


これだけだと胡散臭い話だろう。
事実主人公も胡散臭い話と最初一蹴しようとしたが、そこまでの旅費等でこれまた莫大なお金を提示され心が揺らぐ。
そして愛する妻とも相談して、長い長い旅に出るのだった。

この旅の一部始終もとても面白い。
あまりに長くて、途中でちょっと嫌になってしまう二人、がいて、列車を乗り継ぎそこにまた奇妙な案内人がいて、ようやくたどり着く辺境の地。
しかしそこをくぐる時に、二人ともがもう戻れないんだと言う予感にも囚われる。
このあたりの描写が見事であり、二人がとんでもないところに行くのだというぼんやりとした不安感にまた読んでいる側もまた囚われる。

行った先ではそれはそれは奇妙な陰鬱な町が展開されている。
昔の服が横行している、貨幣はあるものの一瞬金持ちになったかと思うと次の瞬間には無一文になるという循環を繰り返していて、住んでいる人は全員が訳ありであって、それでも主人公の画家はある新聞社の挿絵を描くという職を得る。
けれども奇妙なことにこの町には太陽が差さない。
しかも招待者のはずの旧友は一向に会うことができず、住んでいると見られる宮殿に行ってもさっぱりそこに行き着けない。
この街自体がどこかに行こうとしても行き着けない、何かを得ようとしてもそれが完全に得られるわけではない、という不条理に満ち満ちた場所なのだ。
そして建物もまたヨーロッパ中から集められたような建物だが、なぜかちぐはぐだ。
それでもこれがまだ生活できている内は良かった。

後半で支配者に反逆するアメリカ人が出てくるところから、すさまじい、と言っていいほどの王国の没落が始まるのだ。
動物が跳梁跋扈し、虫が出て、生き物が勝手に生き始める。
人間もそれに合わせて堕落し始める・・・・それはまさしく地獄のような図であった・・・・

・・・
死の予感に溢れているような小説だ。
カフカをどうしても思い出す。
そして、全てが悪夢のようにも思えてくるのだ。
とんでもない長い悪夢の中で生きていかねばならない絶望、そんなものを感じ取った。
災厄、絶望、混乱と混沌、人間らしさを失った人達の行動、それらが見てとれる。

やや、後半の町が崩れていく部分が長い、と私は思った。
前半の町に行くまでの部分がとてもよくまとめられているだけにそう思ったのだった。
絵が(作者が本当は画家らしい)時折入っていて、このグロテスクな物語を際立たせていたのだった。