評価 4.4

わかりにくい小説だったが、私は嫌いではない。
次のこの人の小説を読んでみたいと思ったのだった。
ただ全体にはあと一歩か、あと一歩!

わかりにくいのは、この話、「夢」の話が半分以上になっているからだ。
人の夢の話って面白くない、普通は。
そのあたりで、どこからどこまでが夢でどこからどこまでが本当で、というのが極めて曖昧なこの作品、好き嫌いわかれるだろうなあと思う。
私はこの夢の部分、嫌いではなかった、すれすれのきわどいところで「つまらない夢の話」を聞かされている感は免れている。
ただ後半ちょっと失速する、ダイチ部分でちょっと飽きるのだ、夢の世界にも現実世界にも(このいらっとする事務所の後輩の男は必要なんだろうか?)。
だからなんなんだ、と言う気持ちにもなる。

最初の部分は、ハルという女子中学生がいて彼女の話で、お父さんがちょっと家で嫌な存在になっている、年の離れたお姉さん二人がいる(ひとりは家を出て結婚して子供もいる、ひとりは大学生で家で同居している)。
お母さんはおじいちゃんのお葬式のあとのことで実家に行っている、というシチュエーションだ。
ハルは、ある男子生徒に告白されているがよくわからないと言う気持ちだ。
一方でハルは、過去いじめられていてそのトラウマがあり、今でも大きなグループにはいるがその中の一人を除いては心を許すことが出来ない。いつもおどおどとしている。

一方のダイチ部分は、同棲している女性に子供が出来た。
それを素直に喜べないのは、かつて中学生の時に、きれいな女の子伊吹がいじめの対象になっていてその最後の別れの時に会ったというのがトラウマになっていることがぼんやりと心にあるからだ。

この話、不思議の国のアリスをモチーフにしているので(と思う)うさぎが出てくる。
言葉としてクイーンも出てくるし、男女の双子のぞみとひかりも出てくるし、また顔にあざのある男性もたびたび狂言回しのように登場する。
地下のバー、いとこのシュウちゃん、伊吹の存在、観覧車、横浜の色々な場所、が小説を彩ってくれている。

私はこの話、以下のように考えた。
作者の意図したことと全くずれていたら申し訳ない。

以下ネタバレ
・シュウちゃんはなんらかの事情で亡くなっている(多分外国で客死)。
ハルのお母さんが実家から戻って来られないというのはその暗示(お父さんも途中までは言っているし)
何度もハルの前に出てくるのは、ハルが再び中学校の人間関係につまずきそうになっていて、それを助けるためにこの世界に引き込んで彼女に伝えたいことを言っているのではないか。

・一方で、ダイチの方の中学生時代のいじめられていた同級生伊吹(女性)も死んでいる。これはいじめからの自殺。
だから、シュウちゃんと伊吹は死の世界にいる。
伊吹は、いつまでも自分の死の責任から逃れられないダイチにやはり伝えたいことがあったのと、次に生まれてくる命があるので(ダイチの子供)そこに向かって踏み出して欲しいと言う意図があったのではないか。

・この作品、最初からおじいちゃんの死、ということで死が前面に出ている。
死のにおいが濃厚な作品だ。
一見そう見えないのだが、死の国に(そこにのぞみがいてひかりがいて、うさぎがいて)ハルもダイチも旅しているように見えた。

・ダイチの夢の中を(死の世界ともリンクしている)、ハルが横切り
ハルの夢の中(死の世界ともリンクしている)ダイチが横切っている。

・ハルの部分で、同級生からの言葉がどちらなのか(本当なのか現実なのか)そのあたりがとてもわかりにくい。
これはそういう風にわざと描いたのかそれともそうではないのか。
ここのあたりが、好悪分かれるところだと思う。