評価 5

ミステリでもあるけれど優れた青春小説、友情小説でもあると思った。
主人公のあまりに特異な生育状況が私の心を捉えて離さなかったし、主人公がそこから抜け出すのにいかに苦慮しているかというのも伝わってきた。

特異な生育状況というのは

「残虐な殺人を100以上もして捕まった父親に子守唄代わりに殺人の極意を教えてもらったこと」

なのだ。
残虐といっても並みの残虐さではない。
ある時にはレイプを何度もして天井に貼り付けたり(目玉もくりぬいている)
ある時には拷問し責めつくして殺したり
そして共通しているのは、指を切り取っている。

既に収監されている殺人犯の手口とと同じような殺人が始まった、同じ町で。
同じ町に依然として主人公のジャズ(殺人犯人息子)は住んでいる、周囲の目に晒されながら。
しかも認知症が始まりかけている祖母(殺人犯の母)が一緒に住んでいて、この人もなかなかにエキセントリックな人だ。
同じような殺人が始まって、ジャズはすぐにこれは連続殺人犯と言うのだが警察は取り合ってくれない。
父のやり方を模倣した模倣犯だと直感する。
独自のジャズの調査が始まるのだが・・・


ジャズの造型が実に瑞々しい。
父親のしていることがよくわからない時代からずうっと父親の薫陶を受けてきた、しかも殺人の。
毎日のように誘拐殺人の話を聞かされていた。
自分の愛する犬を殺されているのをじっと見ていた、幼い時代。
母親の行方は知れず、これも父親が殺したとされているが見つからないし、ジャズの遠い記憶では彼が母親を殺したのではないかと言う微かな自分に対する疑いもある。
いまだに週刊誌記者は自分の記事を撮りたくてたまらず周りをうろうろしている。
こんな気が狂いそうな状況の中で、ジャズがまともでいられるのは、

コニーと言う黒人のガールフレンドの強さ。
血友病で体は弱いのだが無二の親友ハウイーの屈託のなさ。

この二人がジャズを真っ当な道に進めている原動力と言えよう。
親友を心の底から大切にし、恋人を心の底から愛する。
この単純で素朴なことが出来るジャズの姿には、幼少時代、そして今の悲惨な状況を考えると、胸打たれるものがある。
陰に入ってしまう思考になりそうになると必ず救ってくれるコニーの論理的な話、ハウイーの憎めない、実はなんの根拠もないのだが「お前は殺人犯じゃない」という心強い言葉。
これらがジャズをどんなに人生の暗黒面から救ってくれることか。
このあたりがミステリであると同時に青春小説でもある所以だ。

後半、ジャズは父親に会いに行く、刑務所に。
そこで父親と合う場面は、トマス・ハリスのハンニバル・レクターとクラリスが会う場面を髣髴とした。
異常者である父親とまともま暮らしを営んでいる息子。
言葉で巧みに操ろうとする父、それに一瞬巻き込まれそうに成る息子。
それでも必死にジャズは耐える、耐えて次なる殺人を食い止めようとするのだ。

・・・
この話、第一弾らしい。
次作品の翻訳をとても楽しみにしている。
まだ解決していない問題がたくさんあるのだから。