評価 5


とても心にヒットした小説だった。
対岸の彼女、をやや思わせたが、こういうのものを書かせると本当にうまいと思う。
二人の女性の生活の歴史、折々の世間の動向を描きつつも、過去の疎開先にいつしか戻っていく・・・心持ち、記憶の改竄、都合のよいように自分を言いくるめる感情のうねり、意に沿わない育ち方をした子供達との確執、姑の家の静けさ、こんなもの全てが、手際よく描かれている。
親とは、子供とは、家族とは、そして戦争とは、記憶とは、勧善懲悪とは。
読み終わってとても色々なことを考えた。
そしてそれは折に触れ思い出す類のことのような気がする。

二人の女性がいる、その二人は疎開先で出会った(らしい)二人だ。
二人は偶然再会し、そしてその後、義理の姉妹になって一生を共に見ていくという不思議な運命を辿る。
平凡な主婦の左織は大学の先生温彦と、男女二人の子供にも恵まれ平凡な結婚生活をしていく。
温彦の弟と結婚した風美子は、戦争で孤児になってしまったが逆境をはねのけて、夫の甲斐性のなさも加わって料理研究家として成功する。


一見、ただ一代記を書いているようにも思えるのだが、ここには二人の心の揺れ、のようなものが見えてくる。
いつも溌剌としている風美子に助けられながらも、一方で忸怩たる思いを拭いきれない左織がいる。
そのあたりが実に描写がうまい、左織の心のもやもや具合の描写が。
彼女の娘百々子(ももこ)とうまくいかないところなどは、ぐっときた。
そして、娘がニューヨークに行く直前に母親に放った言葉、というのにも涙が出た。
家族の写真を何度も思い出す左織の心の痛み方というのも心に残る。

そして左織が途中で実に複雑な感情を、親友であり義妹である風美子に持つ、というところもまた痛いほどわかるのだ。
かたや普通の主婦、かたやお金を持つようになった有名人。
左織がかつて疎開先でやったいじめの手先、のような思い出もまた苦々しい。
小さな子供を物置小屋に閉じ込めた思い出、そして後年その子がどうなったかというのを知りたいと言う思いもわかる。
風美子が疎開先でいじめ抜かれた女性と接触を持つというところも圧巻だ。
彼女がどういう人生を歩んできたかを見たい、天罰はあるのかないのか。
このあたりの風美子の気持ちも理解できたのだった。