2015.08.04 海を照らす光


評価 5


なんて心揺さぶられる話なんだろう。
話の根幹も勿論惹き付けられる話だが、情景描写も美しく、久々に小説を読んだ、と言った感じの小説だった。

洋の東西問わず、同じような感じの話は出てくるものなんだなあと思った。
ある日本の小説をそれはそれは思い出したのだ。
でもアプローチの方法が全く違う、そしてそこにこそこの小説の価値があるのだと感じた。

一見無駄と思われるような細かい描写、トムが船で女性を暴漢達から助けるシーン(この女性が最初結婚する人になるのだと思ったら違った、別の意味で非常に重要になる女性)から、トムがイザベルと出会い心惹かれ、そして隔絶された島で灯台守として暮らしていくに至るまでの話も、あとになると心にしっかりと刻まれていく。
その灯台で、愛し合う二人は人はいないものの、三ヶ月に一度の船の定期便を頼りに暮らしていく、それはそれは仲睦まじく。
でも二人の間に子供が出来ても次々に流産死産が続いていく。
冒頭から結婚、そして視までの最初の方の喜びに満ちた生活から、絶望に至るイザベルの姿があまりに痛々しい。
そして、そこに降って沸いたように、ボートに死んだ男の人と赤ちゃんがやってくる・・・・

この赤ちゃんを神様からの贈り物、と考えるイザベルをどうして責められよう。
トムは届けようとするが、イザベルの反対にあってずるずると先延ばしにしていく。
そのうち、イザベルの両親にも祝福されることになってにっちもさっちもいかなくなる・・・嘘は嘘を呼ぶ・・・

・・・・
トムが栄光の戦争殊勲者であるのと同時に、誰にも言えない心の傷を負っているというところもとても重要なところだろう。
イザベルに救われたのと同時に、ルーシーと名づけた赤ちゃんに、トムもまた喜びを味合わせてもらったわけだ。
トムは善良な人間だからこそここから苦悩していく。

そして、赤ちゃんルーシーの実の母親ハナは実は本土に存在していて、彼女がフランクと言う男性と結婚した経緯もまた語られていく。
ここも戦争と言う影が町全体を覆っていて、ドイツ人排斥の憂き目にフランクは合う。
このあたりもうねるような感情がハナの中にあり、どんなにか自分の亡くなったであろう娘と夫を求めているかというのが手に取るようにわかるのだ。
そして運命の出会いで、トム一家とハナは出会ってしまうのだ・・・

トムの良心がうずいて、思わずハナに手紙を書いてしまうというのを二度するのも、彼が善良だからこそ、だろう。
厚顔無恥にそのままでいれば何も波紋は起こらなかったわけだから。
更にここから、トムが捕まって、そのあとイザベルの気持ちがトムから離れるところまでが見事だと思う。
自分を裏切ったトム。
黙っていれば自分のものとして愛して育てられた娘ルーシーを手放すことになったことへの恨み。
そこから、トムを落としいれようとするイザベルの心のうちもまたわかる。

一方で本当の親に引き取られながら、戸惑い傷つき吼えるルーシーの姿もまた憐れで仕方がない。
どんなに愛していても、自分を育ててくれたトムとイザベルを求めてやまない4歳になったルーシーがそこにいるのだ。

・・・・
生んだ親、育てた親。
どちらも愛しているのには変わりないのに、こんな葛藤が生まれるということに泣けた。
そしてラスト・・・ここもまた胸がぎゅっとなったのだった。

以下ネタバレ
(・角田光代の八日目の蝉を思い出した。
あれは誘拐だが、誘拐した赤ちゃんを愛情を持って育てる、放浪にはなったけれど。
そして後半、その子は実の親の元に引き取られる。)

・ラスト、結局ルーシーは実の親に引き取られる。
そして過去のことを全てではないが忘れて新しい暮らしに慣れていく。
一方でトムとイザベルは別の場所で静かに暮らしていく、一度もルーシーと会わないで。

・イザベルの死後、ルーシーはトムの元を訪れる、美しく成長して赤ちゃんを抱いて。
結婚したのだった、幸せに男の子を生んだのだった。
そこにはもうルーシーを愛してやまなかったイザベルはいない。
でもイザベルからの手紙があったのでそれをルーシーに渡したのだ(この手紙がまた泣けた)