2015.08.03 ジオラマ


評価 4.9

短編集だ、それも思い切り暗い気持ちになるような。
どれも暗いものが底辺に渦巻いていて心揺さぶられる。

冒頭のデッドガールは一種幽霊譚だけれど、皮膚感覚でその嫌さが伝わってくる。
ベッドで男を相手にする商売をする女。
その女が何かのにおいを感じている、そしていつまでもシャワーから戻ってこない男、待っているとベッドに知らない女が座っていて語りだす、という、四次元空間が広がっているような物語の構成が、とてもうまい。
ベッドの感じすらこちらに伝わってくる。

六月の花嫁は、よくありがちな話ではあるが、片方が新婚と言うことを考えると不気味だ。
新婚にもかかわらずネットで知り合った「男」に心奪われている健吾。
思い余ってネットの相手に会いに行くと・・・
そこには高校生の女性がいた。
ネットで男と偽っていたのだった。
健吾は自分の中の男性に惹かれる気持ちを確認している。


蜘蛛の巣は、とても短い作品だけど、この中に起承転結がきちっと描きこまれている。
水遣りを幸せな家庭でしているただの主婦が電話を受け取る、覚えのないかつての同級生から、というところから幕開けする。
そもそも読者が思うこの設定そのものがぐらぐらだったことにラストで気がついて愕然とするのだ。
ここで水遣りをしている人は、友達に頼まれているこの家の住人ではない人。
それなのに蜘蛛の巣の絵を買い、夫(友人の)のフロッピーディスクのポルノを読み取り、気に入らない服を破り(友人のもの)と勝手邦題をして、友人の友人と電話で話している。


井戸川さんについて、は、自分が知っている人と自分が知らない部分のその人、という、切れ目のようなものを書いた作品だ。
誰でも二面性はあるが、二面性ということだけではなく、あまりに違う井戸川さんの実際の姿が死んでからわかる・・・

捩れた天国は、美貌の男カールが、ベルリンで日本人女性のガイドをしている、と言う話だ。
日本人女性がある男を捜していると言う設定になっている。
そして彼がつかんだと思った真相は・・・
カールは探していた男が死んだのを知った。
ところが最初から日本人女性は男を捜してはいなかった。
なぜなら男は東京で死んでいたから。


黒い犬、は非常に印象に残る作品だ。
黒い犬に襲われそうに成った子供の恐怖がまざまざとわかる。
そして同居していた叔父さんと母が何か関係があったのだろう、とずうっと思っているのだが、実は・・・
黒い犬というのは、叔父さんであった。
幼い子供は叔父さんが自分を襲うというのが理解できず、黒い犬に変換されていて、それをずうっと記憶の中で保ち続けていたのだった。


蛇つかいは知っていると思った夫の思いがけない一面があるというのを思い知らされる。
ある日知らない女から電話がかかってきて夫と関係があると言われる。
夫はそもそも射手座ではなく蛇つかい座で・・・

ジオラマもとても面白い。
階下の女といつの間にか関係を持ってしまうエリート銀行員の物語だ。
最初、うるさいといって文句を言いにきた階下の女。
ところが、銀行員の夫が会社で色々あり、もてあました鬱屈を階下の女に求めるようになる、そして全てが破滅の道に・・・

夜の砂は短編でとても詩情に満ちた哲学のような小説だった。
死を目前にした白日夢・・・