2015.08.13 街への鍵


評価 5

もうどうやったって、レンデルは面白い。
人々の設定の仕方、全く関係のなさそうな人達がそれぞれ生きていて一本の糸になっていく面白さ、一本の糸になる前のそれぞれの人の生き方の多様さ、そんなもの全てがいい塩梅にブレンドされているのだ。

浮浪者を次々に殺していく、さて犯人は誰か、というミステリではある。
(ミステリはここだけではないけれど)

でも実はそのミステリ部分よりもずうっと興味がひかれるところがたくさんある。
それは、善良そうな一人の美しい女性が付き合っている男から逃れ実に特異な状況下で知り合った男性と恋に落ちる、という部分だし、また一人のエリートだった男性が家族の出来事で転落し人生を見失って浮浪者になっている、と言う部分だし、ずうっと従者の位置にいて70過ぎて年をとっても尚犬の散歩業に従事しなくてはならない男の心の屈折の部分だったり、もする。
つまりは俗に言う、「人間が描けている」ので安心して楽しんで読めるのだ。

・メアリは白血病患者のために骨髄移植をした、善意で。
その事が原因で付き合っていたアリステアと言う恋人の本性がわかり別れたくて仕方がないが彼は追ってくる。
両親は既にいなくて、祖母の家の近くの高級住宅地の家の留守番を頼まれていてそこで生活している。
アイリーン・アドラー博物館で働いている。
・ローマンは教養ある浮浪者だが、かつてはエリートで出版社勤務であった。しかし妻子を事故でなくしてから人生に意味を見失っていた。
・かつて異常な性癖を持った主人達に仕えてきたビーンは、70歳過ぎてもまだ働かなくてはならず、屈折した思いを抱きながら金持ちの人達の犬の散歩を何匹も引き受けている・・・・


この三人が公園と言う場で交錯していく様子が目に浮かぶ。
メアリが美しく繊細な優しいレオという自分が骨髄移植をした男性と奇妙に意気投合し、愛し合うまでもとても心に残るのだ、はかなげなレオ、今にも消えてしまいそうなレオ、そして彼がたまに突然姿を消すこともあって、メアリはその時に動揺する自分を発見するところも微笑ましい。
奇妙、と書いたが、自分が骨髄をあげた人、というので特殊な感情も出ているのだろう。
そして二人の意気投合振りといったら・・・・
それだけに前の彼のアリステアが追ってくる姿も怖い。
一方で前の彼であるアリステアはストーカーよろしく、メアリの後を追ってくる。
アリステアの不気味さがどこまでも光っている。
(ここが大変巧いと思う、書き方として)

またたまたまメアリを公園で見かけた、今は浮浪者のローマンは、途中からメアリを保護するような目で見ている。
彼女がアリステアに追われている時には彼に逃げていったのと別の方向を教えるとかしたり、メアリが家に帰り着くのを見守ったりしている。
そしてメアリもなんとはなしにローマンに気付いている。

ビーンの最後に勤めた主人は、虐待される趣味がありそれで快感を得る男だった。
そこにはあらゆる「痛めつける」男がやってきた。
中でも一人突出している男がいて、彼は主人を死に至らしめるほどやってしまったのだった。

・・・・・
公園であらゆる人が行きかいそこであらゆる人が色々なものを見出している。
ラスト、あるひとつのことはちょっと予想がついた、かなり早い段階で。
でもそうだったとしても、これは改めて説明されると驚きの中にある。
もうひとつのことはまさかここに繫がるとは思わなかったので非常に驚いた。

またローマンが普通に自分を取り戻していく姿にも心打たれた。
全てを失ったと思っても尚、まだ生きていく何かしらを路上生活から見つけたローマン。
最後のところで、メアリとちょっとした繋がりができそうなので、これからの二人がどうなるかを心で想像したい。


以下ネタバレ
・レオには兄がいて、兄は弟のために骨身を削っている。
これが冒頭のほうから、狂言回しのようなホブ(薬が欲しいので兄の言いなりで事を行う)が出てくる。

メアリが骨髄移植をしたのは弟の方。
ところが、自分が骨髄移植をしました、と名乗り出てきたのは、兄の方。
兄カールが弟のレオと名乗り嘘をついていた、最初はメアリを騙してお金を取るため、そして徐々に本気で好きになる(本人の弁では)
結婚式直前で、メアリは、アリステアからの手紙により、既にレオが死んでいることを知る。
ということは、来ているのは誰か?しかもレオと名乗る男は来なくなっている・・・
そして、レオと名乗っていた兄が告白し自ら車に身を投げる。

ここの部分、アリステアがストーカーに見えてものすごく悪い人間に見えるので(そういう部分もあるものの)、レオと名乗っている兄の悪が見えにくいというところが素晴らしい。
また、この兄こそが、ビーンの最後の勤め先の主人をなぶり殺した男であった。
兄が俳優というのは、メアリの話にもあるし、同時によく読んでみるとビーンの話にもチラッと出ている。
だからこの二人が同一人物というのは気がつくはずだが・・・私は気がつかなかった。
そのことに公園で出合ったビーンは気付いて脅迫しようとする。


・最初から出てくる
「レオと名乗る実際は兄のカール」に使われて
それでお金をもらっている
ホブ、は、

ビーンがムッソリーニと呼ぶ頭の大きな男。
ジャンボジャンボと繰り返す癖があるのが、最初から見えている。