評価 5(飛びぬけ)

イーデン・フィルポッツ。
これまた懐かしい方だが、がこの小説は初めてだ。
古典なのにこれだけ新鮮に面白く読める、というのは素晴らしいことではないか!
最初から引き込まれまくって、最後まで一気呵成に読んだ。
最後まで全くわからなかった、犯人が、そしてこのトリックが。
探偵役のニコルが最後真相を話し始めた瞬間、(あ!!!!もしや!!!)と気付いたのだが、でも私が真相に気付いてから(あそこは一体どうなっていたのだろう、彼は?)と疑問が山のように出てきた。
しかしニコルと、そのあとの手記の手紙を見ると、実にこのミステリ、周到に作られていることがわかる。
あーだからか!
だからそうなっていたのか!

トリックとしては、現代にも古典にもあるトリックで、わかってしまえばなるほど、なのだが、そこにもって行くまでのもって行きかたが熟練の技だと思う。

・・・・・・・・・・・・・・・
出だしが、「絶世の美女に突然心を奪われ、恋に落ちる、向こうも自分を憎からず思ってくれているようだ」
と言うのから始まって
(美女?突然のめくるめく恋?何かと似ている・・・)
と思っていたら、この前に読んだ「欺きの家」の青春部分にとても似ていたのだった(恋ってそういうものなのでしょう・・・)。
違うのは、イーデン・フィルポッツの方は、男の方も皆さんが振り返るくらいのイケメンだということ、だ。
美男が美女に惹かれる美しい浜辺の散歩中に、そして美女の目の悪いお父さんがそこで躓いて怪我をして、医者である美男が手当てをして知り合いになる・・・

というドラマティックというより漫画チックな出会いで始まる恋がある。
でもこの恋にはネックがあって、何より重要な「お金」が美男医師ノートンにも、美女ダイアナにもないのだ。
そしてノートンにはもう一つ複雑な条件をつける大金持ちの叔父がいて、
「もし自分の気に入っている秘書ネリーと結婚すれば全ての財産を渡す」
と迫られている。
このネリーがすっとこどっこいの女性だったらダイアナ、で、迷いはないだろうが、どうしてどうしてネリーは叔父さんが見込んだだけあって素晴らしい性格の女性なのだ(後半更に光る)
だからちょっとだけノートンは迷いそうなものなのだが・・・

でもここはビバ、若気の至り、ということで、本能のままに美女ダイアナを選ぶのだ、ノートンは。
自動的に叔父さんの財産は受け取れなくなるが、ちょっと心の中でもしかしたら許してくれるのでは?と甘い気持ちも持っているノートンがいる。
更にダイアナは美しいが、贅沢な暮らしも好きな女性だった。
結婚してその叔父さんに会いたいと熱望してもなかなかノートンはあわせてくれないのが不満だ(だろう・・ノートンはこの一連の事情を話していないので会わせられない)

一方、ダイアナはコマドリと言う愛称がついていて闊達な女性だ。
姉がいて、彼女はマイラ(ミソサザイという愛称)というテニスもやっていて、二人を見つめるベンジャミン・バースハウス卿という準男爵が家を出入りしている。
バースハウス卿に熱烈に恋をしているのは姉妹のうちの姉のマイラ。
でもバースハウス卿が選んで求婚したのがダイアナだった。
ダイアナはノートンの求婚を選択することで、卿を断るのだった。
そののち、卿はマイラと結婚するのだが、マイラが途中で自動車事故を起こしておなかの子供と足を痛めてしまうという悲劇が起こる・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・
タイトルにもあるように、ダイアナがいつかの時点で殺される、というのは明白だ。
タイトル自体はマザーグースだけれど、ダイアナの愛称がコマドリなわけだから。

このミステリ、終わってから冒頭部分の出会いの場面を読み直すと、ここも実に周到であることがわかる。
お父さんを挟んで、マイラ(姉・ミソサザイ)とダイアナ(妹・コマドリ)が支えながら歩いている姿。
そしてお父さんが目があまりよくなく転んでしまう姿。

またバースハウス卿がダイアナに求婚を断られた時に、説き伏せようと言う言葉の数々がある。
更に、若気の至り、でダイアナを選択してそのあととんでもない人生の変転に遭遇するノートンの、一種頑迷であるが、真の人のよさのようなものも端々に見える。
またダイアナの陰に隠れているが、マイラの姉としてのおとなしさ、控えめさ、でもバースハウス卿を本当は強く愛する気持ち、事故にあった後の絶望のひと時、などマイラの性格も如実にあらわれている。

ノートンに一方でふられた形になったネリーの人の良さといったらどうだろう。
結婚した相手のダイアナとすら仲良くなろうとするネリーの人の良さは、風と共に去りぬのメラニーがちらっと脳裏をかすめた。

人物描写に優れているので、どの人も隣りにいるように見えてくる。
風景描写もまことに美しく、さすがにイーデン・フィルポッツの本領発揮というところだ。
時代をちょっと思ったのは、
今の時代で医者と結婚するというのはどちらかと言うと世間的に見て成功、なのだろうが(金銭面などに鑑みて)
この時代、医者はたいして価値がなかったということだ。
医者イコール貧乏と言う図式で描かれている。
それより、不労所得で土地を持っている貴族の方がずうっと価値があったのだろうと。

以下ネタバレ
・ダイアナは死んでいなくて、謎の病気は毒を飲むことによった自作自演だったが、
そのあとマイラと入れ替わって、マイラを殺す、ノートンから送られてきた薬を飲んで、ということで
ノートンが犯人とされる(それがダイアナの復讐)

これに加担していたのが
当然ながら、マイラの旦那のバースハウス卿。
マイラの事故以来、元々心があったダイアナと復縁していた、陰で。
彼は本当はそのままそっとしておけば(復讐をしなければ)終わると説得しようとしたが、どうしてもダイアナは全てを結婚前に言わなかったノートンを許せなかった。
自分が財産がなければ結婚しないと思っていたノートンが許せなかった(が、実際なかったらなかったで本当に結婚したか疑問だが)

ダイアナは美人ではあったし頭も良かったのだが、犯罪者の素質も大きく持っていた野心家でもあったと思う。

・冒頭の海岸場面で、
ノートンと一緒に歩いている友人のニコル(探偵)が
前から歩いてくる三人を見て
二人の女性が非常に似ている、と指摘している。
ダイアナに一瞬で恋をしたノートンにはなぜ二人が似て見えるのか疑問だっただろうが。

ここにも後に、入れ替わり、が成立する伏線がある。
姉妹だから背格好も似ていただろうし(背格好だけはごまかしがきかない)、元々かなり似ていたのだ。

・ダイアナは演技好きだったというのが随所に出てくる。
途中で劇団に入りたいといってノートンと喧嘩するくらいだから。

だから、マイラの演技が出来たのだった。
しゃべり方、立ち居振る舞いもマイラそのものになって、知っている人をも欺く。
ただ、ノートンだけは避けなければならないので、彼だけは葬式に(ダイアナのと一般にはされているが、実はマイラの葬式)呼ばなかったのだった。

・姉妹の父も重要。
彼が目が悪いという前提がなければ、

・探偵のニコルがダイアナとマイラの入れ替わりに気付いたのは
「足が悪いのに引きずっていないマイラ」を家を張り付いて見ていた時に発見したため。