評価 5 (飛びぬけ)

なんていい話なんだろう。
ミステリとして、というより普通の家族の小説として心の琴線を押された感じがした。
ボトムズとかに近いかなあ・・という読み心地だった。

少年の語りで全編が作られている。
だから制約はあるのだ、この少年が見聞きしたことでなければ書けないわけだから。
その制約を見事に昇華して、少年ならではの瑞々しい視点、である夏の出来事をある意味淡々と語っていく手腕が素晴らしい。

牧師の穏やかな父、教区の教会で歌を歌う美しい芸術家肌の母、美しく聡明で都会の音楽学院進学間近の姉のアリエル、年より聡明な弟アクセル、そして語り手の13歳の少年フランク。
彼らが過ごす1961年、ミネソタ州の田舎町は実に平凡であり、幸せであるように見えた・


前半部分で、こののんびりとした田舎町の雰囲気が痛いほどこちらに伝わってくる。
田舎にいがちな因縁をつけてくる不良、これまた田舎にいがちな適当な悪徳警官、蛙に花火をつけて爆発させる出来事、友達同士の友情、教会に集う人々、噂の広まり方、田舎独特の性への関心、危ないと言われても行ってしまう町のスポットの数々・・・・
一つの町で色々なことが完結している。
そこにたまに訪れる大きな出来事は、小さな子供の死体があったとか(事故として片付けられる)、浮浪者の死とか(これも事故として片付けられる)、で、死に彩られた夏の始まり、であったのに誰も随分後になるまでそれに気付かない。
また先住民族への白人からの迫害というのも出てくるには出てくるが、小さな問題に見える。

中盤から後半、に至る場面で非常に悲惨な出来事が起こる。
そこまでは、人が死ぬのも他人事であったがここで一気に暗転する。

そして悲惨な出来事があってから、小さな幸せと思っていた家族はよくよく見てみると問題は沢山あったのだった。
・弟達に優しいアリエルは音楽の才能に溢れていてジュリアード音楽学印に行く才能まであったのに、なぜか進学をしないという選択をしようとしていた、家族に彼女は秘密があるようだった。近所の男の子達からは外見から兎口と言われている。
それはボーイフレンドのお金持ちのカールのことなのか。

・穏やかな牧師の父は、戦争体験者であった。戦争前は弁護士を目指していたが、戦争が全てを変えた。
そして戦争で起こった出来事を誰にも語ろうとはしていない。

・芸術家肌の母は、近所に住んでいるエミール・ブラントという音楽家とかつて恋仲だったが捨てられる。弁護士になると思っていた夫が牧師になったのにおおいに不満を持っている、実家はお金がある(エミールとの関係で今では相談相手になっているのだが、エミールはまた戦争で盲目になっていて、聾唖の妹とともに住んでいて、そこでアリエルを教えている。)

・弟のアクセルは聡明ではあるが人前に出ると吃音というハンデを背負っている。

この問題が後半一気に噴出す。
暗くなった家族、ばらばらになった家族、そこで皆は何を求めるのか。

タイトルが非常に秀逸で、このタイトルの部分は何度読んでもぐっとくる。

以下ネタバレ

・姉のアリエルが行方不明になって挙句の果てに死体で発見される。
家族はどん底に落ちるが、更に殺されているというのがわかる。

容疑者が浮上するのだが
アリエルが妊娠しているというのが判明して
交際相手カールがまず疑われる。
しかしカールはゲイであった(これが悪徳警官から一気に周りに広まりカールは結果的に自殺する)

・そしてフランクが気づいたのは

アリエルが一番接触していた顔を損ない目が見えない音楽家エミールが恋の相手だったのではないか

ということだった。

そしてアリエルの子供はエミールの子供だった。

・殺したのは目が見えるエミールの妹の聾唖のリーゼだった。