評価 4.8

とても面白い連作集だった。
この作者を初めて読んだが、もしこのシリーズが続くのなら是非是非読んでみたい、そう思わせるミステリだった。

まずこの話、異色のリーガルミステリだ。
異色というのは、法廷場面があるわけではなくそこで丁々発止のやり取りがあるわけでもなく、
その前の段階、「弁護士に頼んだ依頼者がどういう行動に出るか」というのを新米の弁護士が担当していく、というリーガルなのだ。
だから話は、示談に持っていこうとしたり、なんとか罪を少なくしようとする話し合いに終わったり、地味なのだ。
でもこのミステリの魅力は、人間ドラマがあり、法律と言うものの穴のような部分を突いた意外性、に最後着地するところだと思う。
話にちょっともたつく感じはある。
そしてそれぞれの話、うっすらと薄気味が悪い部分もまたある、背中に何かをべったりとつけられたような薄気味の悪さが漂っているのだ。
でもそれを上回るラストのひっくり返しが面白い。

この中で、情にまだ流されてしまいそうになる弁護士が木村龍一。
そして同じ事務所にいる先輩格の(儲けているらしい)弁護士が高塚で、高塚は冷静な判断を下す側、に立ってある時にはキムラ弁護士を嗜め、ある時には方法を教えてくれる、ある時には意外な真実を見抜いてくれる役割を担っている。

・・・・・・・・・・・・
最初の表題作、黒野葉月は鳥籠で眠らないは、最初から気分の悪い幕開けから始まる。
なぜなら、家庭教師をしていた15歳の少女と関係を持ったという大学生がいる。
彼は全く反省したという雰囲気でもない。
なんとか示談に持っていこうとする木村弁護士。
しかし彼を待っていたのは、当の本人の15歳の少女だった・・・・

この物語、少女があともう少し待ってくれと言ったところがキーポイントだ。
そしてこの後の展開は思いもよらなかった、少なくとも少女側の思惑もわからなかったし、その前のある一言の重要性もわからなかった。
ここがとても面白かった。
ただ・・・ちょっともやっとする部分もあるけれど。
実はこの女子生徒の側から思いを寄せていて、なんとか大学生と関係を持ちたいと思っていた。
大学生も憎からず思っていた。
女子生徒からの誘惑であった。
この話、結婚が16歳からできる(親の同意があれば→ここは偽装だが、というのがちょっともやっとするところ)というのを逆手にとって、婚姻届と言う形で決着を見ている。
あともう一点もやっとするのは、この大学生、本当に本当にこの結婚でよかったのかという部分。


石田克志は暁に怯えない
は、とても優秀だった弁護士の卵だった木村弁護士の友人の石田が、夢より大切なものができたと言ってロースクールを辞めた、と言うところから話は始まる。
お金がない石田は自らの子供の心臓病の費用を捻出できない。
そして石田は、自分の富豪の父親の家に忍び込んだ罪で一度捕まってそのあとに、石田の父親は殺される。
石田は殺人容疑で捕まる。
自分の父親が遺言書で相続の廃除しようとしている(相続人からなくす)ということを石田は知っていて殺したのか?
また殺人者は相続できないという法律(相続欠落)を知らなかったのか?
こういう疑問が木村弁護士の頭を駆け巡る。
現場に遺言書があったことから、衝動的に石田がお父さんを殺したということで木村弁護士は納得する。
が。
このあとの展開も法律を知らなかったら全く理解できなかったが、とてもわかった、この行動をとるのが。
なんのためか、という加害者側の気持ちが道義的には許されないとはいえ、痛いほど理解できたのだった。

遺言書で相続廃除が有効でも、相続欠落(殺人などで相続権がなくなった場合)の場合でも
相続権は子供の子供にいく。
つまり急を要している石田の息子に相続権が移るのだ、そこまで考えて石田は行動をしていた。


三橋春人は花束を捨てない
この話が一番薄気味悪かった。
一体・・・・と思う、こいつは・・・とも思う。
善意の顔をした悪魔ってこういうのだろうなあ・・と思った。
更に本当に幸せになれるのだろうか、とも思ったのだった。
でもこの話もくるっと裏返るところが面白い。
面白いながら気味悪いが。

お弁当屋さんに魅力的な女性深浦葵子がいた。
その女性の高校時代の友人が三橋春人。
春人は妻の浮気に悩んでいるということで木村弁護士のところにやってきた・・・・
真剣に彼のことを心配している葵子(あおいこ)の姿が印象的だ。
そして調べると確かに妻は浮気をしていて、一人娘を引き取るだけが春人の希望だった。
浮気相手を利用して、妻は養育権も手放し、離婚成立となるのだが・・・・

この離婚は最初から仕組まれていた、春人によって。
彼は子供が欲しいだけのために結婚した(葵子は子供が生めない)
そして浮気を自分の知り合いに仕組ませたのだった。
それほどまでにして、葵子と結婚して幸せな結婚生活を営みたかったのだった。


小田切惣太は永遠を誓わない
は、最初の方から途中までかなり気分が悪い話だ。
年の離れた奥さん、ではないというところが。
途中でそのからくりがわかる、これまた法律の世界の話なのだが、穴とでも言える部分だろう。
ここも面白かった。

小田切惣太は著名な芸術家だ。
彼の作品は、高額で取引されている。
そして彼には妻がいた、年の離れた妻が。
更に彼は、実家とは断絶していて親戚の誰も近寄れなかった。
しかし、ここに高塚と一緒に通ううちに、木村弁護士は新たなおぞましい事実に気付くのだった。
ひょっとしたら。
もしかしたら。
そしてその事実を高塚にぶつけると意外な答えが返って来た。
折しも小田切が急逝する・・・
遺産相続が勃発して、親戚がやってくる・・・

木村弁護士は、小田切の妻が子供ではないかと言う疑念に囚われる。
そしてそれが事実だということに確証が出てきて、親子と言うおぞましい虐待があるのではないかと疑い始める。

が、事実は逆で
小田切の才能を最初に見つけたのが若かった妻であった。
そのうちに二人は愛し合って同棲する。
しかし、自分の死後、財産もめがあることを余命短いと悟った小田切は予測して、高塚に相談するのだ。

もし小田切が妻として女性を迎えれば、小田切が死んだ後、親からの遺留分請求があることが予想される。
けれど、養女として向かえれば、小田切の死後、親からの請求は出来ない。
ここを高塚は見越したのだった。

養女になった、妻と言う形になっている。