評価 5

今まで読んだものの中のどんなジャンルにも属していない小説、の感じがした。
最後とても感銘を受けた。

この物語、アフリカ難民のサリマが流れ着いたオーストラリアの精肉加工場で過酷な労働をしながら息子達を育てていく、と言う話から始まるので、一瞬、「難民の人の苦労話」と思っていると、次に日本人の女性が学者の夫の赴任先のオーストラリアの場所で、なんとか自分自身がしていた研究を進めようとしているという恩師への手紙が出てくる、だからここは「日本人の女性のアイデンティティー探し」になるのかと思う。
この二つが撚り合わされて一つの物語になっている。

この小説、丹念に読んでいくと、単純にこの二人が途中で交わって、離れて、というのがあるのだが(名前は違うがそうだと推察される)、単にそういう話ではないような気がした。
言語、というものの意味、言語の力、を強く強くこちらに問いかけてくれる小説だった。
この場合の言語は母国語以外の言語だけれど。

サリマにとっても英語は未知なる世界のもの、でも生活のために必要不可欠なものだ。
日本人女性通称ハリネズミにとって英語は学問への入り口であり、サリマよりもアカデミックな教育を受けている分読み書きでは圧倒的に有利なのだが、やはり未知なるものでもある。
この二人が職業訓練学校英語クラスで出会い、二人の進歩具合と、プラス二人の境遇が語られていく・・・
また語学学校で出会ったオーストラリアに30年暮らしているパオラの孤独もまた、英語を通じて語られていく。
ハリネズミのアパートで、英語をしゃべれるが字が読めない男にハリネズミが英語の童話を読んでいく姿も忘れがたい。
サリマが自分の息子の学校で自分の生い立ちを、そしてなぜオーストラリアに来たかというのを訥々とした英語で語り始める姿も印象深い。
そしてその結果一人の息子は取り戻せるのだ、自分の下に。
どの場面も、一場面一場面が立ち上がってくるように映像として脳裏に焼きつくのだ。

どの人も苦悩している、そしてどの人も「英語」という異国語を獲得することによって、彼らの尊厳を保とうとするのだ。
異郷で生き抜いていくということ。
違う言語を獲得して、違う国の人達とコミュニケーションをとろうとすること。
誰もがそれを必死に行っているという姿に胸打たれる。


途中、英語の手紙が織り込まれていて、そのある手紙で、ある悲惨なできごとが起こったのがわかる。
そこがとても辛い、英語で淡々と書かれているだけに辛すぎる。

そのあとの立ち直り、そしてこの小説全体がどういう構造かというのがわかるところが実に味わい深い。