2016.03.16 シンドローム


評価 5

あーすごいなーと思った。
佐藤哲也独自ワールドの展開が。
高校生男子の内面が溢れ出ていて、もうもうそこが辟易しながらも、(これは絶対にありえる物語)と思ったのだった。
非日常が突然始まっても、この年代の男の子には日常のだだもれの感情の方がずうっと大切だろうから。
崩壊が起こるまでの7日間の物語だ。
7日間の設定は、一週間と言うことでもあるだろうが天地創造の一週間と見ると興味深い。
(ノアの箱舟にも似ているし、後半の水の出方が)

ある日学校近くの山に火球が落ちた。
皆がそれを教室で目撃して、そこに見に行ったりする。
数日後には落ちた場所から陥没が起こる。
そしてついにわけのわからない触手も目撃されるようになっていく・・・・


こんな重大なことが外では起こっている。
けれども、高校生の「ぼく」は、片思いしている久保田さんの動向が気になって仕方がない。
そして自分の友達の平岩も久保田さんに気があるような気がしてくる・・・
一方で外の騒ぎは収まらない・・・

『ぼくは久保田を久保田と呼ぶ。久保田を久保田と呼ぶことで、久保田を抽象化しているのかもしれない。久保田を久保田と呼んで抽象化し、言わば非精神的な要素を排除することで久保田とのあいだに距離をたもち、安定させているのかもしれない、とぼくは思った。つまり久保田は精神的な存在だった。その範囲で久保田に肉体はなかった。』
どうだろう、この思考のこねくり回し方は。
どうだろう、この反復の思考の仕方は。

中学生の自意識過剰の駄々漏れがこちらにどしんと伝わってくる。
友人とひそかに張り合っている心
久保田へのねじれた思い、久保田との会話の一喜一憂・・・
そして映画マニアの倉石の特異な存在感(全て目の前で起こったいることを映画に置き換えることをしている)。
久保田を一目見て気に入ったらしい現実に根付いている(と見える)平岩。
どれもが一つのワールドを作っている。

設定は完全にSFなのに、屈折した青春小説の趣といったとても不思議な本だ。
本当は飛行してきた謎の物体の物語のはずなのに、それを外枠に置き、高校生男子の日常から離れられない物語にしてしまう技がすごい。

一方でこの本、現実の311の津波と言うことを考えると、それはそれで全く別の読み方も出来る。
日常から非日常にぽんと飛ぶ。
これってそんなに遠い出来事ではないのではないか。

西村ツチカの絵がまた相乗効果を上げている。
絵が物語を盛り上げている、と言った好例だと思う。