評価 5

この素晴らしき本!(タイトルのもじり)

知らない作家のエッセイを読むというのはいかがなものか、と思いつつ読んでいったら、はまりにはまった。
途中で何度も大笑いしたし、何度もぐっときた。
このエッセイは、いまだ戦時下のイスラエルに暮らす作家の実にリアルな話だ。
どうやったらこんなにうまく書けたのだろう?
一瞬の退屈もなく、短編(それも超短編)のようなエッセイが一気に頭の中になだれ込んでくる気持ちよさといったらどうだろう。

作者の肉親は(祖父母、母世代)はナチにポーランドでゲットーに隔離された、という経歴を持っている。
それが徐々に分かっていく。
そしてタイトルは、最初に作家の子供レヴが生まれた、というおめでたい話題がありそこから子供の成長を追った七年の移り変わりというのを、繊細なタッチでしかも大胆にあぶりだしている。
最後の解説を見ると、もう一つの意味がタイトルに込められいる、というのを知って、はっとしたのだった。

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笑ったのは、太ってきた作者が色々なスポーツに入ろうとして検討を重ねた結果、残ったのがピラティスで、しかも妊婦用ピラティスの話だった。おなかの大きな奥様に交じって、ただの太った男の人がいる、という光景を想像しても笑えるけれど、『妊婦はだんだんいなくなる(子供を産むために)』という当たり前の事実にも笑った。
ほろ苦く笑ったのは、息子のレヴが幼稚園で禁止されているチョコレートをひそかに用務員からもらって食べているのを先生から注意された親、が、なぜかと聞くと、自分が猫だからという名回答が返ってくる。このあとの展開が素晴らしい、子供の話から世情への皮肉なものの見方が膝を打たせる。

ユダヤ人ということを念頭に置いて暮らしているので、人がちょっとしたことを言っても侮蔑と受け取ってしまう変換機能のようなものが自分の頭の中にある、というのも胸打たれた。
またガンになり死にゆく父と、流産している妻と、更には自分のタクシーがぶつかられるという最悪の状態の時の文章も、人生ってこういう時があるなあ・・・と三つ巴の不幸に唸った。
お父さんとの絆の話も印象的だ。
そして自分より年上でずっと優秀だった兄の話もまた。
民族の話でもあるけれど、家族の限りない愛の話でもあるのだ。

ポーランドの家を作った時の話、もぐっときた。
ここにかつて母が子供時代ゲットーから生き延びるために住んでいた場所だった。
そして、両親は死んでしまったのだが、母は生き延びるように彼女の父に言われるのだった、名前を続けろと。
そして、そこに母の息子である作者が名前を表札に出した話、泣けた。
更に、前の家のおばあさんが昔ここにゲットーから食料を求めてきた子供二人に、自分の母がジャムのサンドイッチをあげたと言い、今自分があなたにあげるジャムもその時と同じレシピだという話にも胸詰まった。

現実に爆撃があるイスラエル。
そこに爆弾が落とされるときに、息子と母と父(作者)がサンドイッチのようになって地面に伏せる場面も忘れ難い。
これがサンドイッチだと言い、息子がパストラミ、自分たち両親がパンダという。
子供に怖さを教えないようにするなんてユニークな言い方なんだろう。
この話もラストがまた心を打つ。