2016.06.20 埋葬された夏


評価 4.6

過去と現在とが交互にやってくるミステリだ。

「ある一人の少女」がイギリスの小さな海辺の田舎町で殺人を犯し、今も治療施設に入っている。
そして20年後勅撰弁護人の依頼を受け、一人の元刑事の私立探偵ショーンが立ち上がる。
20年前とは違い、DNA鑑定などで圧倒的に進歩している科学。
再審を求めて、物語の扉は開いていく・・・


先日読んだ「ささやかで大きな嘘 」と構造的に似ている。
どちらも、「殺された人間が誰かわからない」というところだ。
ただ、違うのは、「殺した人間がとりあえずは逮捕されている、その名前は出ている、コリーンという少女だった」というのが埋葬された夏、では明確に出ていることだ。
これをひっくり返そうとしているので、実は違う犯人がいるのだろう、というのは初期の段階で予測はできるのだが・・・・いずれにしても「誰が殺されたのか」というのは最終までわからない。

まず2003年の部分は私立探偵ショーンがこつこつと歩いてこの町の過去を探っていく、色々な人に会う、という部分で成り立っている。
途中までは正直、この部分はそれほど惹きつけられない。
茫洋としてショーンがしていることに興味が薄くなっているからだ(テンポがやや遅い)
これに対して、1983年の高校時代の描写は勢いがある。
ここは最初の部分からぐっと惹きつけられた。
エドナという初老の女性が不良娘の子供サマンサ、つまり孫を引き取ることになる戸惑い、そして過去の、自分の娘アマンダの荒れ狂った所業、サマンサへの一抹の不安、などが克明に描かれている。
更に、学生生活で、転校生のサマンサが親友だったコリーン(メイクからして不良の娘、母親がどうしようもない家庭に過ごしている)とデビー(まっとうな家に育った娘)の中に見事に割って入って、二人を引き離し、コリーンを自分の支配下に置くサマンサの特異な性格と奔放な金遣いの荒い生活が語られいてく、ここがとても見事な青春物語だ。
また、デビーが崇拝していた幼馴染の男の子アレックスの心と体さえ、実に巧みな戦略で奪っていく様は読んでいてぞっとした。
デビーの恰好をまねするサマンサ。
アレックスがたむろしている場所にさりげなく近づいていくサマンサ。
悪魔的な狡猾さでじわじわと人に迫っていくサマンサ。
嘘を悪びれずつけるサマンサ。
サマンサの母のアマンダは再婚しているが(そしてサマンサからは徹底的にそのことを批判されているので一瞬サマンサが正しく可哀想な子なのかと思う。)、一番サマンサを理解していて、この子の危うさをいぶかしんでいる。
だからこそ、かつて家出した両親の家に娘を託すことになったのだというアマンダなりの理由が後半になってわかってくるのだ。

・・・・・・・・・・・
一方で私立探偵のショーンが調査を続けていくうちに、今でも酒場でたむろしている人たち、は、酒場の持ち主を含め、全員がこの事件時に殺人者として隔離されているコリーンと同じ学校に通っている人たちだというのが明らかになっていく。
かつての不良少年のスモレットは今では更生して警察官になり、警部まで昇進している。
彼と親しいのが、レナード・リベットだ、彼は引退したとはいえ、警部でスモレットの上司らしい(そしてかなり早い段階でスモレットとレナードが強烈に繋がっている何かで、というのはわかる)
(全てが分かってからスモレットの現在の場面を読み返すと108から109ページ、非常に味わい深い)
閉鎖された小さな世界で、ショーンの行くところに様々な障害があらわれてくる。
果たして犯人は他にいるのか?
施設にいたコリーンのあの反応は何だったのか?
謎は深まる・・・・

・・・・
最後、全く予想していなかったので、ここは確かに胸打たれた。
こういうことだったのか!と。

が、ちょっと全体に盛り込みすぎ、という感じがした、あまりに多くの事がありすぎて、混沌としてくるのだ、途中で。
生まれながらの悪の造型のような人間がいて、また別の悪の権化がいて、悪の権化とつるむ更に悪がいて・・・何人悪がいたのだろう。
非常に惜しいと思ったのは、ショーンの造型が、今一つ薄い感じがしたのだった。
ショーンの動きはわかるのだが、ショーンがもうちょっと内面を見せ、魅力的だったら、と何度か思ったのだった。

以下ネタバレ
・真の殺人犯はサマンサ。
そして殺されたのは、デビーのボーイフレンドのダレン。
それはそれはむごい方法で何度も刺され(サマンサが刺した)殺されたのだった。
(サマンサは精神的におかしかった幼い頃から、というのがそこここに描かれている)

・この物語の中で、サマンサは過去にしか出てこない。
だからサマンサはどこかにいってしまったのだろう、または「殺されたのがサマンサ?」と誘導されている、読者は。
けれど、実際は、殺人のあとの隠蔽工作(レナードなどの)で、彼女は逃げおおせていて、しかも目の前にいた。
スモレットの奥さんがサマンサだった(そして見事にサマンサが受け取ったエリックからの遺産をスモレットとレナードは享受した。そう思って108ページを読むと感慨深い)

・幼い頃から問題行動があまりに会ったサマンサをずうっと母のアマンダは見ている、母親として。
一方アマンダ自身は男運に恵まれず、幼いころの父からの虐待もあり、定まらない生活をしているが、ようやく一人の理解してくれる男と巡り合う。
なんとかしてサマンサを普通の少女に戻したいと思っているアマンダの姿が後半光ってくる)

・悪の権化は警部だったレナード・リベット。
彼が支配しているような街だった、彼は男性も女性も相手にする非道な男で、女衒のようなことすらしていて、脅迫も殺人も陰に隠れてやっていた。
彼と組んでいた悪は、エドナの夫(つまりサマンサの祖父)エリック・ホイルだった。
彼も特殊な性癖を持っていて、若い男の子をレナードから斡旋されていた。
金持ちだった。
また家出した娘アマンダはなぜ不良娘になったかというと、エリックホイルに性的虐待を受けていたためだった。
これを妻のエドナは黙認していた。

・また、レナードの娘が、実はコリーンだった(コリーンの母親とレナードはかつて関係したらしい)というのが後半でわかる。
つまり、レナードは自分の娘に殺人を擦り付けたことになる(が、悪の権化なのでこんなこと痛くもかゆくもないだろう)

・コリーンは売春のようなことまでしていた、母親に強制されて。
そこで知り合ったのが、ゲイで同じようなことをしていたノージ。
男なのだが女性のような恰好をしていたノージは奇妙な書物で自分を逃避されていた、悪魔崇拝のような逃避にいっていた。
そこにコリーンははまって、ノージにもらった本をいつも頼りにしていて、彼女もまた逃避していた。

・すべての真相を知っていて
真実を暴こうとしたのが勅撰弁護人であり
それは、かつてのコリーンの親友、デビーであったのだった(これが衝撃の結末。名前を変えていた)

<文章的に腑に落ちなかったところ>
18ページ
「夫が上着に片腕を通しただけで、灰皿に煙草をくすぶらせたまま出がけにした慌ただしいキスで頬がひりひりする。」
最初の、片腕を通しただけで、と最後のところが違和感。
主語ははぶかれているエドナ、というのは十分わかるのだが・・・・

132ページの最初から4行目の読み方はなんだろう?
石の前だけれど。