2016.06.28 虚構の男


評価 5

これが、1965年に書かれていた、というのが驚きで、次の驚きは作者が煙草屋さんのおじさん(作家になったらしいがそののち)であるというのもまた驚きだった。
こんなことを考えていたのか!煙草を売っている間に!
とても面白かった。
最後まで意外性があり、最後の最後でこうなるという展開は全く予想していなかった。
しかも、この話の舞台が1966年であり、中の作家アラン・フレイザーが書こうとしている未来小説は、2016年!なんと今年ではないか。
これを今年出版した粋な出版社の計らいに感謝したい。

ジャンルは本当に超越している。
広義でいえば、SFなのだろうが、途中で推理小説にもなっていて、また奇想の系統も間違いなくある。
そしてこの小説、私は大好きだった。
振り回される感じを心行くまで楽しんだのだった。

・・・・
冒頭の方で、実にのんびりとした田園風景が描かれる。

小さな村ビューデイで、きれい好きの家政婦ミセス・ロウを雇って気ままな暮らしをして、作家のインスピレーションを待っているアラン・フレイザー。
彼の隣人リー・クレイグは、毎朝声を掛け合うような仲の良い隣人だ(奥さんまで仲が良い)
小さな村の全員を知っていて、誰でも挨拶できるような静かな生活を送っている。
ところが、途中でぱっと綻びがアランの頭をよぎる、自分が歩いていた今ここを緑色のバンが通っていなかったか?
道は一つしかなく、見落としたはずがない。
ちょっとした綻びが、アランを疑心暗鬼に駆りたてていく・・・


そしてこのあと、アランは運命の女性カレンに散歩中に出会うのだった。
彼女が指摘した辻褄の合わないこと、というのにアランは大いに納得し始める・・・・
こそこそと、村の人たちに会わないようにして出ていくアランの姿がちょっぴりユーモラスで笑えるのだ。
彼は真剣そのものだけれど。

・・・・
と、こういう話なのか、カレンが真実のビューデイの姿をアランに教えようとしている話なのか、二人でこの村から逃れようとする話なのか、と思う。
でもカレンは一体だれ?と思うだろう。
実はカレンもまたある組織に属している人間であったことが次の部分でわかってくる。
最初の方でのPMは一体何なのか、という言葉の意味はここでわかる。
わかるけれど、とても驚きがあり、またここで次の謎が出てくる。
一つ終えれば次の謎が、そしてもしかしてその答えは真実ですらないのかもしれない。
二重三重に重なり合った謎がある。

・・・
この話、敵味方でいえば、敵だと思っていた人が味方、味方だと思っていた人が敵、というのが目まぐるしく変わっていく。
前半はアラン視点だが、後半はアランはいなくなるので(隠れてしまう)、全員がわいわいわいわい出てきて、そしてこれで終わるのかと思いきやまたラストに返り咲き!
ここもまた読みどころの一つだ。
そして、
ディックの小説を想起させる。

以下ネタバレ(自分用メモ)
・映画のトルーマン・ショーを思う。
また、パインズも思う。
またフランケンシュタインも当然思う。
起きたら、隔絶された世界でそこはわざわざその人のために構築された世界という意味で。

・実はこの世界は2016年になっている。
そこは独裁国家であり、ジュリアス・ミンスタリーという人間が最高司令官となっている。

・ヘイガン・アーノルド(アラン・フレイザー)は、国家側の訓練を積んだ優秀なエージェントだった。
ヘリジェットの着陸失敗で大火傷で記憶を失う。
顔を与えられ、記憶を与えられそれに即した生活を作られる。
小説として、彼の竹のカーテンの向こう側の記憶(共産主義側の潜入記憶)を書くことを当局は期待していた。

・ヘイガンは独自の進化を遂げていく(心が読める、ヒトの頭に思考を投げつけられる)
そして、アラン=ヘイガンは、かすかな記憶と人工的な過去を受け継ぎ別のものになり始める。

・ラストで、このアラン=ヘイガンの思考が、死んだはずの最高司令官ジュリアス・ミンスタリーに受け継がれる。
今度は、アラン=ヘイガン=ジュリアスになるのだった。(このあたりがフランケンシュタインを彷彿とさせる)






一番最初に出てきた村の人達を整理すると。→国家側を敵側、アランの方を味方側にしている。
アラン・フレイザー・・・作家。この話の主人公。2016年の物語を書こうとしている。→実はヘイガン・アーノルドという名前。
リー・クレイグ・・・アランの隣人→敵。
ドクター・クラウザー・・アランの発作(記憶をたまに失う)を抑える注射をしている。→最初敵側と思ったら味方。
ホルト少佐・・・退役軍人→最後まで敵
カウエン巡査
アンソニー・ヴェリティ・・・画家→味方
フレッド・トリー・・・・リフティ&ブランド卸売店の車運転手→グレゴリー・ガリア。味方。ヘイガンの時代のヘイガンの親友。
ピーター・クランプ・・・陽気な郵便局員
ジョージ・ターヴィン・・・食料雑貨店→敵かと思ったら味方

・PM・・サイコマトリックスの意味。
・ジュリアス・ミンスタリー・・・この国家の長官