2016.07.09 偽りの書簡


評価 4.5

まずこの物語、SFではないものの、今の時代から思うとSFとも取れる設定、独裁政権下のバルセロナ、というのがとても重要な背景になっていることを念頭に置かなくてはならない。
(この時代によほど精通している人でないと、この本の冒頭からの描写についていくのに必死になる)だから、警察というのものが全く信用が置けず、国家に反対している人たちというのは投獄されたり拷問されたりするのが普通の事だ。
1952年のバルセロナ・・・フランコ政権、スペイン内戦、カタルーニャ地方・・・・
市民同士もお互い見張っているような状態で誰が誰を信用していいかわからない。

というような状況で、

上流階級の一人の女性が殺された・・・
新聞記者アナ(彼女自身もスペインの圧政下で弟を刑務所でなくしていて、おまけに過去新聞記者だった父も思想の影響で今は無職になっている)が新聞記事を書くために調べていくうちに、警察が結論を出す。
これは強盗殺人だった・・・
ところが、アナはこれに疑問を持ち、殺された女性の人間関係にたどり着く・・


アナとともに登場するのが彼女の親戚の文献学者ベアトリズだ。
彼女ももまた、共和党政府寄りの記事を書いたために学会から受け入れられていない元大学教授、なのだ。
葬式で偶然彼女の会話を聞いて、彼女が文章を読み解く力がある、というのをアナは認識する。
だからこれ以降、殺された女性が持っていた手紙を発見しその文章から相手がどういう人だったのかを推測するのに手助けを頼む・・・

途中まで警察の捜査官イシドロ・カストロとアナは協力態勢にある、カストロも彼女のことを認めてくれているように見えた。
カストロも命令された通りの捜査しかできない。
なので、(カストロはそれでも反逆してアナと結託して真実を探るのかと思った)読者はカストロとアナの捜索なのかと思うのだが・・・・
予想とは違って、途中でカストロは一旦フェイドアウトして、アナとベアトリズの女性二人の探偵ということになるのだ。
ここがちょっと期待と違っている、こういう状況下(警察が信用できない)なのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが・・・
組む人間が、アナとベアトリズならば、早くこの二人を出してほしい。

アナとベアトリズの素人探偵のようなペアが主に知恵を使って、地道に文章の言い回しなどから犯人を特定していく様子は丹念に描かれていた。
ただ・・・ここは、翻訳になっているので、今一つ・・・のところも多いような気がした。

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アナがさりげなく上流社会の女性たちに、殺されたマリオナの評判を聞いて回っていくところはとても読ませる。
彼女らがどうマリオナを見ていたのか。
マリオナは夫の死後どういう生活を送っていたのか。
そして冒頭のマリオナの死体を発見した人間がこの事件の犯人なのか?
またアナの副業の代書屋部分も楽しい(そしてこの部分でとてもあとで重要な人物と知り合いになっていることが分かる)

細部は楽しいのだが、言論が統制された中でのミステリという制約が、私にはあまりフィットしなかったというのが本音だ。