2016.07.21 エレンディラ


評価 5(飛びぬけ)

長編のみならず、短編でもこれだけ素晴らしいとは!
奇想天外な物語で、一編一編が短いのに(エレンディラのみやや長い)強烈なインパクトをもたらす。
どの話も読むと、一つ読むたびに本を置いて目を遠くにやりたくなるような話だ。
日常生活を普通の都会の中でしていると、幻想的で呪術的な世界、魔力のある世界が平然として現実と並列で並んでいることに驚嘆する。
そして出てくる登場人物が、それを平然と受け止めているということに感動すら覚えるのだった。


冒頭の大きな翼のある、ひどく年取った男、の強烈な印象と言ったらどうだろう。
まず設定が大量の蟹を殺した悪臭で満ちている家、で始まる。
蟹!
蟹が家?!
こんな場所があるのか?!
そして貧しいその村に天使が来る、羽を付けた天使が。
しかしこの天使はみすぼらしく、汚らしい・・・・飼っているという雰囲気さえ漂い、檻の中に閉じ込められていく・・・・
汚さがこちらにも伝わってきてぞくっとする。
そしてラストの高揚感と茫然とした感じ・・・・

失われた時の海、も蟹から始まる。
一人の男トビーアスがバラのにおいを感じるのだ、海の方から。
それは最初一人だったが彼以外にも感じるものが出てきて、そしてそこに金満家の男が遠くからやってくる。
彼は皆に望みの金が入るようにしてあげると言う、対価を支払うことによって。
ある人には鳥の鳴き声をさせる、ある人にはチェッカーで戦う、ある人には売春をさせる(ここ、あとのエレンディラを彷彿とさせた)
そして彼とトビーアスは二人で海中に潜り、バラの香りのする海底の村に行き、そしてそこで多くの死人を見るのだった・・・ここがとても幻想的だし、読んでいてぞくぞくする箇所だった。

エレンディラは、娼婦の物語だった。
娼婦なのだが、無垢だ。
強烈な祖母に支配され、自分の家を労働の過酷さからくる不注意で火事にしてしまったエレンディラは、その代償として娼婦に仕立て上げられる。
彼女はこの仕事が嫌で嫌でたまらないのだが、逃れられない。
そして、ある時に一人の青年ウリセスと運命的な出会いをして、そこではじめてエレンディラは「笑う」ということを知るのだった・・・
エレンディラのラストが映像のように頭の浮かんできたのだった、この場面本当に美しい。

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訳者あとがきの木村榮一さんの文章がいつもながら素晴らしい。
本の解説のみならず、他の本への道標ともなる文章だった。