評価 5

前作の悪意の波紋から好きな作家なのでおおいに期待して、そしてやはりとても楽しいフレンチミステリだった。
前の作品は、文字通り波紋、なのだが、今回は波紋というより思い込みの面白さだった。
また真実はどこにあったのか、というのが最初の場面と後半の場面で、語る人が違うと(真実はこうだったんだ・・・)というのがこちらにわかる仕掛けになっている。
予想を裏切っていく感じの筆致は変わっていないで、私が予想していくのと全く違った方向に行くのがとても読んでいて爽快感がある。
尚且つ、各場面の印象的な光景が、音楽とともに脳内になだれ込んでくる。
砂浜にやむをえなく埋もれていく高級車マセラティの最期の場面はとても美しい、と同時に危険だ(本当にこれは危険なことだった、とあとでわかる)
そしてここではジェームズ・ブラウンの曲が流れている。
このミステリの中で、車、も、とても重要なファクターだ。
何度も何度も出てくる、シュベール5(サンク)も要所要所で特段の役割を果たしている。

冒頭で、世界的な人気ロックバンドライトグリーンのボーカルがシチリア島で失踪した、というニュースがある。
身代金要求もなく、失踪の理由も見当たらない。
いったいどうしたのか。
そして一旦この話は終わり、別の話に。
2年余り前に、フランスのカレーという町での幼馴染の二人がある事件を起こす・・・・


カレーの町で貧しい少年時代をともに送った二人の少年カルルとフレッド。
彼らはしようもない窃盗や犯罪を繰り返し裏稼業で生きている、ちっぽけなチンピラだった。
でも、彼らが出会ってしまったのが、一人の魅力的な女性だった、その名前はキャロル。
美女キャロルは、最初カルルと関係を持つが、当時刑務所に入れられていたフレッドに心変わりして彼を愛するようになる。
いわば乗り換えたキャロルを愛しながらも、フレッドとの友情をはぐくみ続けようとするカルル。

このカルルとフレッドの絶え間ない友情場面がぐっとくる。
普通自分の彼女を取られたら、むっとするだろうに、そこを、「美女のキャロルがカルルからフレッドに普通に滑るように移行した」という流れになっている。
カルルはフレッドの刑務所での辛い日々を思い、彼の不幸だった幼少時代を思う(自分自身も決して幸福ではないのだが)
続いている二人の友情は、フレッドがずうっとある計画を温めていたということにも発揮させられる。
フレッドはマフィアのドンというべき男をずうっと監視し続けていたのだった。
彼らは、マフィアのドンの男の別荘から、大金と高級車を盗んだのだった・・・
しかも高級車は思わぬ事態で廃車寸前になりとりあえずお金をもって二人は逃げる・・・

・・・・
このあと驚くべき展開がある。
大金と車を持っていた二人はある酒場で、車ごと大金を誰かに盗まれるのだった。
それを追うカルルとフレッド。
運悪く、カルルは別の車にはねられて死亡・・・
そして逃走した車は見つからない・・・・

・・・・・・・・・
ここまでだと、ドジを踏んだ二人の窃盗犯(しかもチンピラ)の物語、だろう。
そしてここまで読んで、いったい最初の世界的アーティストはいったい誰だ?どこに絡んでいる?という疑問がふつふつと沸く。
ところが、ここからなのだ、面白さは。
なんと!!ということが次々に起こる。
こうだったのか!真相は!というので目を見開かせれる。

・・・・

途中のニノを一人の人間が発見するくだり、実際の料理人ジェイミー・オリヴァーーが出てくるところなども面白い、ちょこっとした皮肉とともに。
つまりはニノはそういう立派な結婚パーティーに招かれていて、そこでバンド演奏とともに歌った歌声が伝説のマイヤーリンクという音楽プロデューサーに見いだされる。
しかも、マイヤーリンクが各地で見出してきた人たちには「緑の光」が後光のように刺している、というのも美しいし、ファンタジーのようで(見出していくこと自体がファンタジーっぽいし)読ませる。
それぞれの得意分野で群を抜いている人たち。
その人たちの中でニノはボーカルとして参加し、巨大な名声と富を得る、ある足音に怯えながら。
(フレッドとカルルが二人で、マフィアのドンシマールの足音に怯えていたのと同じ構図)

なぜ自分がこのような立場に追い込まれたかというところで、キャロルの存在に気付いて彼女の所に行って話を聞いたりもする。
サーカスにいたキャロル。
そしてキャロルの話もまた、重くカルル、フレッドが思っていた形とは違っていたのだった・・・
キャロルの話が、ややインパクトに欠ける、と思ったのだが、これが日常で本当の世界はこうなんだということなのか。
キャロルは、カルルからの恋文を見ることはない、だから自分がそれほどのことをした、または愛されていたということを障害知ることはなかった。

思い込みの齟齬、人がそれぞれこうじゃないかと思っていることへの反語、のような面白さの本だと思う。
誰かが知っていて誰かと誰かが知らない事実。
誰かと誰かが知っていて誰かだけが知らない事実。
食い違いの連続があったのだった。
そしてラなだれ込むようなスト、私はこのラストとても好きだ。

以下ネタバレ


まずこの車窃盗は、カルルが事前に頼んでいたものだった、ある男に。
このある男、こそのちに行方不明になるニノという歌を歌う男だった。

ニノは予定通り行うのだが、その過程で思いもかけず、フレッドが別の車にはねられて死んでしまう。
逃走中のニノは、カルルからの電話を一切無視する行動に出て逃走する、そのままお金とともに。
(このあと常にニノはカルルからの追跡を恐れているが、カルルは途中で刑務所に入れられる)

フレッドがマフィアのドンシマールをだまし続けてようやく手に入れた200万ドルのお金とバッグ(バッグが重要になる、のちのちに。なぜならシマールの愛人の形見だったから。マセラッティも同じことで、フレッドとカルルは知らなかったのだが不用意にシマールの心に触れるものを壊したり盗んだりしたのだった。)

しかもそのお金は偽札というのがほどなくわかる(ここがまず衝撃。偽札というのはフレッドもカルルもニノも知らない事実だった、ただ一人、シマールのみが知っている事実。)
今更ニノはこのお金をもって、カルルに謝ることすらできない。
それにニノは幸運なことに世界的なバンドのボーカルとしてのし上がっていくのだった。

しかし本当のところは
カルルはニノを追ってさえいなかった。
彼にとってそれはどうでもいいことだったのだ(ということをニノは最後まで知らない)

・・・
一方でシマールは、誰がこれをやったかは分かっていた。
しかし一人は死んでいて、一人は刑務所。
そしてついにニノをつかまえる・・・・

しかしニノとシマールは理解しあう、最終的に。