2016.09.14 終わりなき道


評価 5

辛い。
とても辛い物語だ。
そもそもの事件が監禁強姦がありかなり悲惨な状況が描写されているのでそこは読んでいて辛い。
更に、もう一つの事件での拷問場面も辛い。
でも辛いところも含め、人間の愚かしさ、人間の狡さが登場人物から伝わると同時に、人間のけだかさ、人間の立ち直りの形の道標を示してくれた本だったと思う。
ミステリとしてみても、真犯人は途中まで三人ぐらい候補がいる、読んでいる側にも。
けれど、途中からこの人か!と思う人が違っていて、ああ・・あとの二人のどちらかか・・・最悪の事態か・・・とそこもどきどきした。
ミステリとして、犯人が誰かということよりも、錯綜した人間模様という方が重視されている作品だと思う。
またジョン・ハートらしく、家族とは何かの問いの投げかけがある。
それは必ずしも血がつながっている家族、ではなくても、形態としてあり得るのではないかという問いかけが。

・・・・
二つの事件が組み合わさっているミステリだ。
一つは、女性刑事エリザベス(リズ)・フランシス・ブラックが、ある少女監禁事件で免職寸前になっている。
少女チャニング・ショアが監禁されていたのを救うため、過剰に犯人たちに銃弾を撃ち込んだのだった。
それが白人から黒人への過剰な拷問とみなされかけていたのだ。
そしてリズが語ろうとしていない真実の地下室での出来事とはいったい何だったのだろう。

もう一つは、エイドリアン・ウォールという元刑事が女性を教会で殺した罪で13年間服役していた。
ここに、女性の子供ギデオンがエイドリアンの出所を待って殺そうと自宅から銃を持って駆けつけようとする・・・・
そもそも、このエイドリアンの殺人事件は本当だったのか。
そしてリズがずっとエイドリアンを信じていたのはなぜだったのか。


リズがかたくなに地下室での出来事に口をつぐんでいる。
必ずそこに自分自身の活路があり、すべてを失わずに済むというのに彼女は口を閉ざしたままだ。
でもこれは読んでいるとなんとなく想像がつく。
だから真相がわかった時にやっぱり、と思ったのだった→本当は一緒にいた監禁された少女が銃撃の名手で彼女がリズを助けるために犯人に銃弾を撃ち込んだ。そしてリズもまた針金で縛られレイプされていたのだった。
リズが全ての希望を失っている少女チャニングに自分の過去の若い時のレイプ事件を語るところが印象に残る。
しかもここでは一部しか語られていないが、実は非常にこれが全ての重要な鍵でもあったのだ→レイプされたことによって妊娠、そしてひどい中絶、子供が生めなくなる事態に。しかも牧師のお父さんからはレイプ犯を通報しないで一緒に祈るということを強要される。

一方で刑務所で過酷な日々を過ごしていたエイドリアン。
イーライという死んだ男と話すくらいに精神を病んだエイドリアン。
彼が出所したと思ったその直後の酒場で事件はまた起こる。更にそのあと過去と同じような事件がどんどん起こっていくのだった・・当然追われる身になるエイドリアン。
エイドリアンになぜリズが惹かれたかというのが過去にさかのぼって出てくる→子供を中絶する直前に自殺しようとしたリズに声をかけたのが当時の警察官エイドリアンだった。彼の一言でリズは死から逃れられる。そこから感謝と愛情がないまぜになった気持ちをエイドリアンに抱く。
この場面も重要で、全ての事件の根幹をなしていると言っていいだろう。

面白いと思ったのは、リズも迷っているのだ。
本当に、この人を信用していいのかどうなのか。
盲目的な愛情ではなく、常にそれは彼女の心のどこかに潜んでいる、このあたりの描写が克明に描かれていると思った。
またエイドリアンも人間性を喪失しそうな刑務所暮らしから、微かな光を見出すのがリズだった。
もしかして彼女なら。
もしかして新しい光が。

また監禁されレイプされた少女チャニングは実はなぜ監禁されるに至ったかというのに非常に暗い事実を隠し持っている→裕福な家なのだが、母がヤク中で母の売人から面白半分にヤクを買おうとして監禁されレイプされたという、いわば自分から火の中に飛び込んでしまったという事実がある。そしてそれはリズの人生も変えた。
リズを巻き込んでいるという自責の念もまた彼女の中にあるのだった。
でも彼女もまたリズが確かなものとしてだんだん自分の心の中に成長していく。

更に、過去、母を殺された少年ギデオンは、その後を気遣ったリズに陰日向になって庇われていく。
リズの家族ぐるみで彼を支えて行くのだった。
ギデオンの父は妻を殺されて以降酒浸りになっていたので、ギデオンの心を支えていたのはやはりリズだったのだろう。

こうして、リズが一つの人々の精神の要になっていったと思う。

・・・
後半、また悲惨な事件が起こり、ここで犯人が誰かということが問われていく。
この過程で、老弁護士のフェアクロス(クライベイビー)・ジョーンズがとてもとてもいい味出している。
高齢なのに、茶目っ気があるこの人の佇まいに一気にファンになった。

地平が開けているようなラストががとても美しい。


以下ネタバレ
・リズの父親が、全ての殺人犯だった。
いわゆるサイコパスになっていたのだった、牧師としての職務を果たしながら教会で次々に女性を毒牙にかけていたのだった。そして地下に眠らせていた。

・最終的に、
リズとチャニング、ギデオン、エイドリアンが一つの家族を作り一緒に暮らすことになったのだった。

・エイドリアンはギデオンの母親とかつて不倫していた。
エイドリアンの妻もまた、そのあとリズの父親によって殺されていたのだった。

・エイドリアンの同僚のフランシスが偽の証拠の指紋つきの缶を故意に並べたのだった。

・高校生の時にリズをレイプした男が途中で私は犯人と思っていた・・リズの思考と一緒だ・・・
しかし彼はこれをおおいに反省して娘にエリザベスという名前まで付けていた。

・彼のサイコパス性はわかるのだが、それぞれの人の子供の無垢な顔を見たい、という犯人の父親の願望が今一つ把握できなかった。
殺された人はリズに似ていたわけだから、リズの自分を無条件に慕ってくれた子供の頃、レイプされる前の純真無垢な頃というのはわかるのだが・・・
彼がこうなったのは、リズが妊娠してそれを無断で中絶したから、というのも・・・今一つ理解できなかった。

・エイドリアン、がもう一歩出てほしいと思った。
イケメンぶりはおおいにわかるのだが、彼の全盛期描写が少ないので、あと一歩分からない部分があった。