2016.10.18 QJKJQ


評価 5

ページをめくる手が止まらないほど面白かった。
最初このタイトルが全くわからず覚えられなかったが、こうして読み終わってみるとさくっと覚えている自分がいる(意味が分かったのですね)
好き嫌いが分かれるだろうと書いている人がたくさんいる。
私もそう思っていて、私は強烈に好き、の人間なのだが、嫌い、という人の気持ちはわかる。
まず帯に堂々と「私の家族は全員、猟奇殺人鬼。」とあり、軽くこの本の内容にも触れている。
猟奇殺人鬼の家に生まれ付いた17歳の女子高校生亜李亜(ありあ)
家族は全員殺人鬼で(それもひどい殺人の仕方)ひっそりと普通の家族を装って暮らしている。
当の本人の亜李亜も殺人をする女子高生だ。
ところがある日、、、、

この本が嫌いという人は後半だろう(前半駄目な人は、きっとえぐい殺人場面とかだろうが)
後半戦になって全く違った小説になってくるのだ。
そしてある部部のみで見る人というのはここで一気に失速するのだろう、なんせペダンティックな話がずうっと続いていくのだから。
オチのようなもの、ひっくり返しのようなもののみを期待しているとかなりかなりここで、え、と思うだろう。
私はそここそがとても面白いと思った箇所だった。
全体にも、ペダンティックさは充満している。
古代ローマ人が考えた究極の刑罰ダムナティオ・メモリアエ、ランボオの地獄の季節(何度も出てくるが、ダムナティオ・メモリアエとの関連箇所が読ませる)、カインとアベルの話の中でカインの印について語る部分、シモニデスの記憶法etcetc・・・
しかし後半のある部分から、哲学にもなってきているような気がした、なぜ人間は殺人をするのか、なぜ、なぜ、なぜ・・・
そうはいっても、伏線もとてもよく回収されている。
途中の講演会のような箇所は何だったのか、途中の人の言葉は誰が誰に対して言っていたのか。
前半で?と思ったこと、タイトルに関連したある部分で?と思ったこと、この部分は何だろう?と思ったことが後半でざあっと流れるように溶けていく。
だからそういう面でもとてもよくできた推理小説だと思う。
まだ私にはいくつか疑問があるものの。

ところがある日・・・
引きこもりのお兄ちゃんが部屋で惨殺されているのを見つける、しかもパン切り包丁で。
慄き(自分の身内は慄くのか!と私は思ったりした・・・)泣き、戦慄し、そして次の日にお母さんまでいなくなる。
ここでお父さんに目が行ってお父さんが殺したのではないかという疑惑の目を持つようになるのだった。


最初からかなり残虐な殺し方が出てくる。
そこも怖いし、途中で主人公の女子高校生が平然と殺人一家と暮らしているその姿も怖い。
殺人鬼なのにのんびり日本住宅売買新報という業界新聞を食卓で眺めているお父さんの姿も怖い。
引きこもりのお兄さんも怖いし、家事をやらないで殺人にいそしんでいるお母さんも怖い。
でもこの本で私が最高潮に怖かったのは、後半の真相が暴露されたある一場面だった、夢にうなされそうに怖い。

途中で、女子高生亜李亜が公園で見つけた、鳩を殺し続けているある女性との出会いが一番普通の話だった。
現実離れした話の中でこの部分だけが現実味を強烈に帯びている。
家出した亜李亜を自分の住んでいる場所に置いてくれるまでした鳩ポン・・・
鳩ポンという鳩を殺すだけの一般の女性・・・ここでようやくほっとしたと思ったら・・・なんと!

どこを語ってもネタバレになりそうなこの一冊。
最後の江戸川乱歩賞選考委員たちの言葉もまた面白かったのだった。
また、表表紙をめくってみると、下の方に丸い刻印が見える、ここが!なんとなんと!

以下ネタバレ
・前半で全員が殺人鬼である、と亜李亜は認識している。
お兄ちゃんが殺された時点でもそうだ、そしてすぐに母もいなくなる。
お兄ちゃんが殺された血まみれの部屋はすぐにきれいになっている。
この時点で私は
(ああ・・もしかしてこれは全て亜李亜の妄想?兄がいるのも母がいるのも全員が殺人鬼というのは妄想?心の中の出来事?何らかの事情で亜李亜は心を病んでいる?)
と思ったのだった。
物理的にお兄ちゃんが死んでいるのはともかくも、あれだけの時間で全くきれいにするのは不可能だから。
そうすると、父のみがいるということになる。
とすると父は何だったのか?

・自分(亜李亜)が鹿の角(いまどきで鹿の角に固執するわけが分からないと思ったらここか!と思った。)、母はシャフト(バーベル用の軸)で男を殴る、兄はマウスピースで人の喉を食いちぎってつるはしを持って殺し天秤に心臓を乗せる、
これらは、いつも行っていたファミレスの「アイダホ」のメニューに描かれていた絵だった。
いわく、右の男の人はつるはし、
左の女の人は長い杖と天秤
鹿の頭と角が描かれていたのでこれを脳内に記憶していたのだった。
そして兄は、犬のジョブレスの幻影だった(だから名前が浄武であり、マウスピースを使って噛み付くという行動の殺し方を妄想する。

・殺人を研究する公的機関があった。
全ての近代国家にそのアカデミーがあると「お父さん」役の市野桐清は言った。
亜李亜は、凶悪な殺人鬼の本当の父糸山霧影の娘であり、父は母を殺したのだった(母は殺人鬼ではない)
そして、幼いころの記憶を失っている。
そして市野桐清は、本当の父ではなくこの殺人を研究するアカデミーの一員であった。
捜査も逮捕もしないが殺人の現場に立ち会う、いわば、神の視点で、殺人のフィールドワークをしている。
なので、
亜李亜のお母さんが殺人鬼の父親(母は自分の夫が殺人鬼であることに気付いてそれを指摘して殺された)に殺される場面を、幼い亜李亜と一緒に数人のアカデミーの人たちが物陰に隠れて「観ていたのだった」(ここが私が最大に怖い場面)
お母さんはこの時にパン切り包丁を手にしている、そのあと父親がそれを手にする(なので亜李亜のお兄さんが惨殺されたという妄想にはパン切り包丁があった)

幼い女の子が残された理由は、殺人犯の遺伝子があるからだった。いわゆるカインの印があるかどうか。
強度なショック状態の亜李亜はそこにいたアカデミーの市野を父親だと誤認した。
そして本物の父親が彼によって拷問されているときに(血を抜かれている)、父親とは知らずに、彼の血液を戻してあげる、ということで彼の口の中に血を入れるということをしてしまう、4歳の女の子が糸山が目を離したちょっとした隙に。(これが、前半の「殺人一家で」父親が人を殺す殺し方」に通じる)



・鳩ポンは市野亜李亜そのものだった。
女子高校生亜李亜が父親と思っていた市野の娘だった。

鳩ポンは見知らぬ大学生によって殺される。
大学生は殺人をおかした大学生であって、市野に捕獲されていた、そして鳩ポンを殺した後、市野によって殺される。
鳩ポンの父親市野は、鳩ぽんがはとを殺すために使っていた爆発するポップコーンを食べて、思いがけず死ぬ。

・この全てを見届けた女子高生は市野亜李亜として生きていく決心を少年鑑別所でするのだった。