2016.10.25 その雪と血を


評価 4.8

美しい描写が連なる。
推理小説というくくりだけれど、どちらかというと一編の詩を読んでいるようだ。
特に主人公が最初に自分の思い人と交わる場面、最後の方の色のついた場面、そして最終章から一歩前の場面は非常に美しかった、目の前に場景が浮かぶほどに。
人を愛するということの切なさ、やるせなさ、というのも思った。
推理小説というより普通の文学作品を読んでいる感が強かったのだった。

オーラヴという殺し屋。
彼は麻薬業者のボスの元、殺人をしてきた。
ある日、ボスに自分の奥さんを殺すように命令される。
見張りをしていたオーラヴはボスの奥さんを一目見た瞬間に、一目惚れしてしまって、彼女の不倫相手を射殺してしまう・・・
ところがその不倫相手とは。


怒りに駆られたボスに追われる立場になったオーラヴ。
彼とボスの奥さんとの隠れている様子がうかがえる、ここでそして彼はボスの奥さんを自分のものにするのだった・・・

・・・・
この小説、オーラヴの子供時代がオーバーラップして入ってくる。
そこがとても大事だというのが後半になってわかってくる。
いつもいつも父親に絞めつけられながら犯されていたといってもいい母親。
そんな父親を憎んでいるオーラヴ。
そしてそれは、見張りをしていた時に、ボスの奥さんが不倫相手にされていた暴力と重なるのだった。
またオーラヴはある種の障害を持っている、それが全ての行動に覆いかぶさっている。

一方で、自分の恋人から娼婦にされそうになった足の悪い聾啞の女性マリアを彼はひそかに助けている。
マリアを心の中で愛していたのだった。
レジ係をするマリアを遠くから見守るオーラヴ。
電車内で轟音とともに愛しているという言葉を彼女の耳元でそっとささやくオーラヴ。
これも後半のある場面に繋がっていって、その繋がりこそが美しさを生む。

以下ネタバレ
・ボスの奥さんの不倫相手は、ボスの息子だった。
なので、オーラヴはボスに追われることになる。

・オーラヴはボスの奥さんと逃げていたつもりだが、彼女はしっかりと寝返って反対のボス通称『漁師』と通じていた。
また、オーラヴは無意識だったが、彼女を絞めながら犯していた、彼も父親と同じことをしていたのだ、意識なしに。

・オーラヴは、かつて暴力にはやった父親を殺していた。

・オーラヴは物語を作る人間で、同時に物語が好きな人間ではあった。
が、自分自身は読み書きの障害があったのだ。

・この障害ということが、マリアの障害(足が悪く聾唖)というのに繋がっていく。
自分の障害を認識していて、同時に障害のあるマリアの辛さを理解するということにおいて。
更に、障害ではないし彼自身も認識はしていないけれど、父から「暴力で女性を支配する」というのを無意識に受け継いでしまったという事実もまたあったのだった、オーラヴには。

・オーラヴは物語を作る人間だ。
そして、ラストの一歩前、死にゆくときに、マリアが聾唖ではなく彼を愛していたというのを妄想する、この妄想場面が非常に美しい。
全てを知っていたわ、というマリア。
耳元でささやいていたのも受け止めてくれたというマリア。
ここでオーラヴはとても崇高な愛に包まれている。