2016.11.11 夜行



『世界は常に夜なのよ』


評価 5(飛びぬけ)

ものすごく面白かった。同時にとても怖かったのだった、夜眠れないほどに。
ある画家が描いた夜行という絵、それが大きなモチーフとなっている。
重低音のように夜行の絵の連作が不思議な世界に誘っていく・・・・

ここにもあるように、夜行は夜行列車の夜行でもあるし、百鬼夜行の夜行でもある、と著者自身が書いている。
まさしく、読み手はこの世界に翻弄される。
百物語を聞いているような気持ちにすらなったのだった。
ここでも著者お得意の京都を舞台にして、その魅力と怪異を余すところなくこちらに伝えてくれた。
京都の夜の闇の深さの底知れなさを。
京都の山の何もかも包み込むような不気味さを。

後半のある箇所で動転するほど驚いた。
私の読んでいた物語がひっくり返ったように思ったのだった。
そういうことだったのか・・・と。
どんでん返しとかオチとかそういうことではないのだが、物語の構造がここでくるっと反転する。
ここが特に優れていると思ったのだった。
あ、と本を取り落としそうになった。

読んでいて、何度も思いだしたのは、夏目漱石の夢十夜(全体が夢のような物語が多い)と、江戸川乱歩の押絵と旅する男、だった(夜行列車が何度も出てくるけれど、特に女子高校生と坊主の出てくる奥飛騨の物語で)。
何か心の底を揺さぶられるものがあった。

物語は、ある一人の女性が10年前に京都の鞍馬の火祭で行方不明になった。
彼女は長谷川さんと言って、英会話スクールで仲良くなったグループの一人だった。
このグループで再度10年ぶりに京都を旅しよう、鞍馬の火祭を見よう、という計画が持ち上がる。
それぞれに長谷川さんの行方不明を胸に秘めながら・・・
一足先に着いた大橋君は、ある画廊で夜行という連作を見つける、岸田道生という人が描いたらしい。
少し前にその画廊に確かに行方不明の長谷川さんのような人が入っていったように見えるのだが・・・それは勘違いであったらしい・・・


グループの人が雨がしのつく宿で、この夜行の絵と長谷川さんの話を大橋君がしていると、次々にメンバーがその絵についての不思議な話をし始めるのだった。
中井さんは、突如失踪した自分の妻を尾道に探しに行く。
妻からの手紙にあった場所に行くと、妻そっくりの女性がいるが、妻ではないらしい(このあたり悪夢のようでとても怖い)。
否定されたのでいったんはその人は自分の妻ではない、と納得するのだがどう考えても似ている(このあたりも悪夢のようだ)
続いて、自分の同僚と同僚の恋人と妹の四人で奥飛騨に旅行し、占い師に死相が見える、すぐに帰れと指摘される。
そこで突然いなくなった同僚とその恋人・・・
一体誰がいなくなったのだろう。誰と誰が消えたのだろう、というのがラストの温泉シーンで混沌としてくる。

続いて、藤村さんと夫と夫の友人の旅の話だ。これは津軽への旅だった。
津軽鉄道の列車の車窓から燃えている家が見える、そこで手を振っている女性がいるらしく、一緒に行った夫の友人の児島君はそこからおかしくなっていく・・・
一方で藤村さんは小さいころに仲良かった佳奈ちゃんという女の子の姿を思い浮かべるのだった。
彼女の事を話すと夫が藤村さんの母から聞いたという実に意外な事実を語ってくれる。→佳奈ちゃんは藤村さんの妄想の友達だった、日本の生活になじめなかった彼女が自分で作り上げたイマジナリーフレンドだった。
続いて、田辺さんの天竜峡への旅の話だ。
伊那市の叔母夫婦の所に行く途中の列車内で奇妙な二人に出会う。
一人は怪しげな僧侶、もう一人は女子高生だった。
当初女子高生が僧侶に絡まれているのかと思いきや・・・
途中でこの僧侶が誰だったかがべろっとわかる(このシーンがとてもまた怖い)
→以前岸田道生の集まりで出会った一人の人だった、彼が岸田の作品を持って歩いていた(このあたりで押絵と旅する男を思うわけだ)
僧侶がおかしいと思っていると、この女子高生が徐々に奇妙な姿を見せ始める・・・
そして話は岸田の最期の場面の話になっていく・・・僧侶は看取ったと言い始めるのだった・・・・

全ての場所で全ての岸田作品の夜行の絵がある。
それは不気味で暗く、人を奇妙に惹きつける絵であった。

・・・・
そしてラストの章鞍馬の214ページであれ、と思い、222ページで、世界が反転する。
ここがすごい。

以下ネタバレ
「失踪した」長谷川さん、と思っていたら、皆で再度旅行しようとしていた大橋君こそが「失踪した」人間だった。
それは中井さんに電話をした時に、相手に驚愕されたことでわかってきた。
なので、この旅行で聞いた話が大橋君が作り上げた話ともいえるのだが・・・
でもこの話をすると、確かに中井さんは妻が失踪して尾道に探しに行ったという経緯はある。

また、後半で、岸田道生と長谷川さんが結婚しているという事実がある。
そして連作の絵は夜行ではなく「曙光」という連作であった。
場所は同じでも、全てが光に包まれたような絵。
裏表になっているのだった、大橋君の見た夜行と、この曙光の連作は。