評価 5(飛びぬけ)

とても満足の一冊だった。
自分の名前を騙る人間を追っていく魅力的な導入部、あとで意味を持ってくる小さいけれど華やかな集まり、そしてそのあと突然起こる殺人事件、死ぬ間際に被害者が残した謎のメッセージ。
どれをとっても誰なんだろう?どうなるのだろう?と疑問符が止まらない。
疑問符といえば、このミステリ、章の最後にウィリング博士の疑問符がたくさん出てくる。
あれはなんだったのか?あの言葉は何だったのか?
そこで私も一緒に考えた。
犯人が途中でほぼこの人だ、というのはわかってくる。
けれど、どうやったのか。
どう考えてもやり方がわからなかった。
そしてかなりあとになってこのパーティーがそもそも何だったのかというのが開いていくにつれ、ああ・・・とうなったのだった。


ある晩、自宅近くのタバコ屋で偶然ある男を見かけたウィリング博士。
「私はベイジル・ウィリング博士だ」
と男が言うのを聞いた直後、タクシーで彼は行ってしまった。
驚いたウィリング博士は、導かれるように、彼の告げた住所のパーティー会場に行くのだった。
そして殺人事件が・・・


このウィリング博士を名乗る人物はすぐに死んでしまっている。
そして彼が何者だったのか、というのは割合早い段階でわかる。
更に「鳴く鳥がいなかった」という謎めいた言葉を残して死んでしまう。
鳴く鳥がいなかった、は何だったのか。

そして、続いてすぐに起こる殺人事件で、今度は盲目の資産家老女が殺される。
彼女は最初にウィリング博士が入っていった時に、彼を『偽者のウィリング博士』と混同して(何しろ目が見えないし)、手を取った人物でもあった。
この彼女の役割とは・・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・
パーティーにいた人物たちも曲者ぞろいだ。
・パーティーの主催者でドイツ人の精神科医マックス・ツィンマー
・その妹のグレタ・マン
・ツィンマーの使用人であるオットー・シュラーゲル

●・お金持ちで年老いているナイトクラブ経営者の怪しげな仕事に携わっていたゼアオン・ヨーク
・美しいヨークの妻ロザマンド・ヨーク

●・品のない土建業者ヒューバート・カニング
・その妻のイゾルダ・カニング

●・高名な詩人だが体を壊しているスティーヴン・ローレンス
・その娘のバーディタ・ローレンス

●・富豪の老婦人(盲目)キャサリンショー
・彼女が死ねば遺産が手に入る甥プリンズリー・ショー

・キャサリンの付き添いをしているシャーロット・ディーン

●を付けた後半の人たちは夫婦と親子、または叔母と甥という組み合わせだがペアになっている(重要事項)
ミステリとして、この誰もが犯人になりえる状況とも言えよう。
特にヨーク夫妻とカニング夫妻の二組は夫婦仲がお世辞にも良いとは言えないのが、文面から伝わってくる。

最初のパーティーでウィリング博士が立場を危うくしなかったのは、彼を本物のウィリング博士だ、と認めてくれたロザリンドという知り合いがいたからだった。
ウィリング博士の推理は続く・・・・

誰もが犯人になりえる状況。
でもいろいろなところにヒントが残されている状況。
人々が語る言葉の中に真実が見え隠れしている状況。
行間を読んでいくのがスリリングでとても面白い一冊だったのだ。

以下ネタバレ
・ドイツ人、そしてナチス信仰者ではないとは言っていたが、ツィンマーがまず怪しく思われる。そしてその通りだったのだが・・・。
彼はある合図を使って(話している相手との会話の間に、白と黒のものを交互に触っていく)、彼の使用人のオットーがその指示に従って飲み物に薬物を入れていた。

・そもそもこのパーティーは『精神科医にかかる人たちを集めている会(それはその人たちのためになると表向きではツィンマーは言っていた)』だが、実は、『医師の名のもとに希望の人を殺させてくれる会』であったのだ。
依頼された殺人の会。
片方が片方を殺そうとしている会だったのだ。
(この中で、娘が父親を殺そうとしているのは、辛い病と闘っている父親を見るのに忍びなかったという、ここのみ安楽死が考えられる。そして娘は善良なのでこれが安楽死の会とは思っていたが、まさか殺人の会とは思わなかった。探偵をツィンマーが殺した時点で、違ったということに気づいて失神した。)
皮肉なことに、カニング夫妻に至っては、両方が両方の殺人を頼んでいた。
美しい妻ロザマンドはスリルを求めるために自分の夫を殺すのを頼んでいた。
富豪夫人の甥は財産のため。

・鳴く鳥がいなかった、というのは、薬物の反応を動物実験で見るためにツィンマーが動物を自宅の近くの庭に埋めた結果そこは芝生が生い茂り木も育ったのだが、同時に毒物の残りを捨てたので、鳥が寄り付かなくなったことを示している。

・最初のウィリング博士を名乗る人物は、探偵であった。
盲目の大富豪夫人がおかしいと気づき、彼に依頼したのだった。

・ここにははっきり書かれていないが(解説にはある)、ナチス優性思考に毒されたドイツ人医師というのは最初のほうからうっすらと漂ってきたのだった(が、やり方がわからなかった)