評価 5(飛びぬけ)

別訳で読んではいたけれど、新しい訳で再読。

とても読みやすい。
前のが読みにくいわけではないけれど、圧倒的に読みやすい。

何も知らない、という目で読んでみるとさらに楽しい。
知らない知らない知らない・・・・

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まずこのSFは壮大なミステリでもあるということに気づく、と同時に壮大な哲学でもあることに。
なぜなら、最初の第一部から、『なんだかわからないものが宇宙から巨大宇宙船でやってきて、天空を覆いつくすほどの宇宙船がいて、世界中の人間の生活をよりよくしてくれているらしい。オーヴァーロード(最高君主)はただ一人の人を媒介にして、話を進めている。しかしこのただ地球の一人の人すらもオーヴァーロードの姿を見ていない』
なのだ。

いったいなぜだろう?姿を見せないのは、という単純な疑問に始まって、姿が見たい!!!という気持ちに駆られるのは当然だろう。
そして、もっともっと不思議なのは、なぜ人間の生活に介入し始めいいことと思われることをしてくれたのか?
この謎は最後まで付きまとう。
これに疑問を持って、人間が支配されていると思う層が出てくるのも当然だ。
そして、唯一の接触者があることをして会見の場でオーヴァーロードの姿を映し出そうとするが、これまた失敗する。
地球の接触者ストルムグリンとオーヴァーロードのカレランとの奇妙な友情めいた話もまた素晴らしい。
老いたストルムグリンが湖の近くでこの出来事を反芻してインタビューに応じる姿もまた印象深い。
ストルムグリンは永久にこの真相を知ることは出来ず、真の姿も知ることはなかった・・・・

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姿、に関しては、衝撃の顛末が第二部冒頭で語られる。
ここまで読んでいると、オーヴァーロードの姿形は、想像の中で、
タコのようなもの、人間と全てが逆についている気持ちの悪いもの(つまり、口が後ろについている、とか、全部内臓器官が出ているとか)、全くのロボットのような機械的なもの、おぞましい吐き気のするような形状のもの(どろどろ形)、人間に極めて似ているがゾンビのようなもの、
といろいろ出てくる。
この中でどれだったのだろう?と私は想像を巡らせた。
しかし。
第二部で語られるオーヴァーロードの形を聞いた時に、ああっ!!!と思うのだ。
もうこれはまさにあれじゃないか!!
だから見せられなかったのか!!
そしてなぜ、時間をかけてオーヴァーロードが自分たちを受け入れてもらって、そのうえで何年もたってから人類に自分の姿を見せたのか、という理由がくっきりしてくる。
もし最初の段階でこれを見せていたら、まだオーヴァーロードが浸透していない人類は反発と恐れしかなかっただろう・・・なんと深慮遠謀な・・・・

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(以下ネタバレ含みます)

更に。第三部で、なぜ、彼らが地球にやってきたのかという根本的な問いが開かれていく。
国家は消滅し、宗教もある一部のものを除いてほぼ壊滅している。
犯罪が消えた一方で、芸術も何もかもここでは生まれてこない、そういう地球になっている。
ここもまた非常に圧巻であり、人間とは一体何かということまで考えさせられる。
普通の夫婦と思われた人たちに生まれた子供たちの変容・・・・
これが交霊会という実にプリミティブな集まりで、誰がこの子供たちの両親になるか、というのをオーヴァーロードが喝破するというのが注目される。

交霊会に出てそののち結婚したジョージとジェニファーの二人の子供たちは人類にとって未知の存在になっていく。
すなわち、進化を遂げ、親との意思疎通を絶ち、情緒などなくなり、オーヴァーロードと精神的に感応していくという人種になっていくのだ。
更に更に驚くべきところは、オーヴァーロードの更に上にオーヴァーマインドという意思が存在して、オーヴァーロードは単に彼の下僕だったことがわかる。
新たに生まれた新人種を連れ去るということも。
悪魔の姿も未来の記憶として人類に埋め込まれたものだとも。
オーヴァーロードは、上の意思に従って初期文明の地球のような星に舞い降りてはこれを繰り返していると、いうこともわかるのだ。

ここで面白いのは、一人だけ人類の中にジャンという男性が密入国のような形でオーヴァーロードの船に乗ってそちら側に行き、そして地球に追い返される。
しかしタイムラグがあるのでここで帰ってきて彼が見たものは・・・
異様な子どもたちと誰もいない地球であった・・・

真相を聞かされたジャンが一人ピアノを弾く姿は美しいし孤独に満ち溢れている。
そして最後のオーヴァーロードのカレランの心のうちが語られるのがまた読ませるのだ。