2017.02.12 人形



評価 5

あのレベッカのダフネ・デュ・モーリアの短編集だ。
これは幻の初期短編傑作集らしい。

人の心の奥に潜む何物か。
なにげない日常の中に住み込む悪魔のような感情とか狂気。
そういうものを掘り起こして見せつけてくれるのが彼女の作品だと思っている。
そのゆらぎ具合がとてもとても絶妙なのだ。

またこの短編集は、笑える小品も入っていてそれもなかなか味のある数編だった。
娼婦を扱ったものも数編あった。
牧師を扱ったものもあった。

私が好きなのは、東風、人形、幸福の谷、笠貝だった。

・・・・
東風、は貧しいけれど普通の暮らしを送っていた島民が、ある人たちが来ることによって、かき乱される生活というのをくっきりとあぶりだしている。
それは突然、がキーワードだ。
平穏な日々に突然終止符が打たれる怖さ、突然何かが起こって普通だった人たちが狂気の淵に行く怖さ、そういうのを感じた。→風と共にある船が到着する。そこにいた船員たちが島の人々と交流し始めるのだが・・・ここに一人の妻が船員の一人と密通する、それを夫が知って惨殺・・・

表題作の人形は、どうしてもある作品を思い出す→人でなしの恋(江戸川乱歩)
ある手記が海辺で発見されたことから始まるこの物語は、一人の男性の純粋ともいえる恋の物語だ。
その相手の女性の名前がレベッカ!
魔性の女と言ってもいいだろう、けれど彼女は一瞬彼を受け入れたようにも言える、ある人形の前で。
ところが後半・・・・・ぞっとする展開が男性を待ち受けている。
この人形の描写が何度読み返してみてもぞっとするくらいの描写で素晴らしい。
そして最後の暗転・・・

いざ、父なる神に
人々に尊敬されているジェイムズ・ホラウェイ牧師・・その内情は・・・
皮肉たっぷりに描かれている牧師の本当の姿は容赦が一切ない。
最後の最後で副牧師の窮状が出てきて、それすらも牧師の真の姿を際立って焙り出しているのだ。

性格の不一致
男女のすれ違いの物語。読んでいてあるある!と笑いたくなった。
ずれているのはお互いのせいではないのだけれど、間が悪い二人、そして謝ることができない二人が段々に心がずれていく方向に行く・・・

満たされぬ欲求
一種のコメディだ。
なんとか相手の女性と結ばれたい、だから結婚して新婚旅行に行って、と張り切っている新郎に次から次へと苦難が待ち受ける。新婚旅行でキャンプ場のようなところに行っていきなり雨って・・
下宿屋で部屋に閉じ込められるなんて(しかも一人で)
その姿が笑えるし、ちょっとオー・ヘンリーの物語のようだ(特にラストが)
これと前の性格の不一致を逆に連続で読むと、奥さんの側の許容度の違いが判る(満たされぬ欲求はまだ新婚のため奥さんがとても寛容なのが目立つ)

ピカデリー

お告げを信じる娼婦の話。
一題話のように話がつながっていって、彼女が見る箇所に何かの文字がたまたまある。
それを見て彼女が流れ着いた先は・・・というお話だ。
なんとも人生のやるせなさを感じるではないか、少しだけ笑いながらも。

飼い猫これはなんとも怖い話だ。
しかも当人は怖いと思っていなくて、読んでいる読者が危険だよ、というのが最初の方からわかる、という仕組みがすごい。
寮を出てようやく大人の階段を上ろうとしている少女がいて、彼女は大好きなお母さんの家に戻ってくる。
ところが、そこには前からいる義父がいて、なにやらお母さんの感じが変わっている・・・
タイトルが後でもう一度見てみるととても怖い。
この先どうなるのだろう、この少女は。
それを知りたいような知りたくないようなそんな気持ちに掻き立てられる。


メイジー
メイジーという娼婦の心の中をずうっと追っている。
彼女が見るものは、死んだ娼婦とか、老いた娼婦とか自分の行く末を暗示しているようなものが多い。

痛みはいつか消える

なんとも皮肉な話だ。
自分の愛する人が帰国する日、に自分の親友から連絡がある。
そして親友が愛する人に裏切られたのを知り大いに慰めるのだった。
痛みはいつか消えると。
ところが、自分の愛する人が帰国して会ってみたら・・・

天使ら、大天使らとともに
またしてもジェイムズ・ホラウェイ牧師!!
牧師が自分が病気でいない間に一人の副牧師に後を任せる。
その間に、かつて来ていた富める人たちはいなくなり、貧乏な人たちで超満員になった教会があった。
本来の姿はこうなのだろうが、この牧師はこれが許せない。
これもなんとも牧師に対する皮肉な話だ。

ウィークエンド
ウィークエンドを楽しく過ごそうとしている恋人二人の物語だ。
それなのにボートを借りたというところから彼女たちの亀裂が明らかになっていく。
ちょっとしたことで別れていく男女の姿がなんともいたわしい。

幸福の谷
幻想的で美しいそしてちょっぴり怖い小品だ。
いつも夢見ている幸福の谷。
それが現実にあるとは・・・その中をさまよった末に女性は、現実の恋人からまさにそこ、を提示される(ここがかなり怖い)

そして手紙は冷たくなった
遠くの場所で兄の知り合いから手紙が来た、そこから文通が始まり愛がはぐくまれ、・・・の話。
手紙の口調が段々変わっていくところが読ませる。
そしてこれは、上にある作品のウィークエンドで言い争いが始まる二人の男女の姿に酷似している。
いいところしか見えなかった恋人時代、そして徐々に飽きていく感じが。


笠貝
この話、こういう人がいるだろうなあ・・・と思うだけで怖い。
自分が正しいと信じていて、彼女のアドバイスとか執着とかで人様の人生を操ろうとしている、しかも自分はいいことをしているという自覚があるのだ。
笠貝とは岩に必死にくっついている貝だからこれは、女性が人にくっついていく様、を表しているのだろう。