評価 4.7

面白く読んだ。
東京藝大の特殊性、そこで暮らす(勉強する)彼らの生態、などが本人たちの声で語られていく。
そもそも、この作者の奥さんが実際の東京藝大の学生さんなんだ、ということを最初に知り、そこからのスタートなんだ!ということに驚いたのだった。
身内のそこから入っていくという驚きがあったのだ。
副題が、天才たちのカオスな日常、というのでとても巧い副題だと思った。

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藝大といっても、音楽分野と美術分野で大きく違っているというのがよくわかった。
少し前に恩田陸の小説、蜜蜂と遠雷を読んだが、音楽分野の話ではこの小説を何度か思い出した。
やはり常にコンテストなどとの戦いであり、自分が見られる立場であり(美術はそれがないに等しい)、師匠と弟子の関係であり(美術はそれがあってなきがごとし)、同級生と言えどもライバルである(美術では分野によるのだが共同作業というのも確実にあるので総じて仲が良い)

藝術、という一つの物差しでは測れない世界。
その最高峰というべき藝大にどういう人たちがいるのか?
音楽分野では、邦楽や(これなどまだわかるほうである)、ファゴットや打楽器やマイナー楽器に行く人たち、口笛(!)の人、はどういう気持ちでそれをチョイスしたのか。またその後はどうなっていくのか。
そういうところも読んでいて面白かった。
美術系になると更に混沌としていて、私がまったく知らに世界が広がっている・・・・彫金はまだなんとなくわかっていたつもりになっていたが、鋳金っていったい何だろう?と思って読んでいくと・・・・ああ・・果てしない作業・・・・

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将来ということを考えると、それはそれは厳しい世界だろう。
けれどこの中にいる限りとてつもなく楽しい世界だというのもわかるのだ、また自分の才能を突き付けられる場所、でもあると思ったのだ。
生きていくということ、稼ぐということ、と、芸術性を高めていくということの矛盾を抱えながら彼らは生きていく。

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これ、第二弾を出してほしい。
とても面白かったのだが、やや、突っ込みが足りないような気がしたのだ。
周辺の人たち、親(出てくるのだが、間接的にしか出てこない)、学内の先生(出てくるがもっと出してほしい)、への聞き取りなどがほしい。あともっともっと多くの藝大生にあたってほしい、願わくば、ドロップアウトした人にもインタビューしてほしかった。
藝大生の話だけでもおなかいっぱいになるのだが(満足した)、彼らへのレポのみではなくその先、を語ってほしかった。