評価 4.5

実在の人や事柄をモチーフにした不思議な感触の短編集だ。
10編の物語が入っている。
(・誘惑の女王・・・ヘンリー・ダーガー
・散歩同盟会長への手紙・・・ローベルト・ヴァルザー

・カタツムリ結婚式・・・・パトリシア・ハイスミス
・臨時実験補助員・・・・放置手紙調査法
・測量・・・グレン・グールド

・手違い・・・ヴィヴィアン・マイヤー
・肉詰めピーマンとマットレス・・・バルセロナ男子バレーボールアメリカ代表
・若草クラブ・・・・エリザベス・テイラー
・さあ、いい子だ、おいで・・・・世界最長のホットドッグ
・13人兄弟・・・・牧野富太郎)

 いかにも小川洋子らしい静謐な雰囲気に満ちていて、ちょっとだけ歪んだ世界にぞくっとするような小説の数々だった。
モチーフにした人(や事柄)の簡単な略歴が最後に載っているけれど、その人のどこを切り取ってこういう作品群にするのか、というところが面白いなあと思った。
この中で、あるアルバイトをしていてのちにそこで一緒に組んだ人との再会を描いた、臨時実験補助員は、本当にこういう実験が行われていた(手紙をわざと落として皆がそれを郵便箱にどのくらいの割合で入れるか実験)というのに驚いた。また母乳を搾る姿が生々しく、その後の彼女の零落した様子との落差が読ませた。

カタツムリ結婚式、は自分の同志を見つけようとしているちょっと変わった女の子の物語であり、彼女が飛行場で見つけた奇天烈な男がカタツムリを持っていたという話なのだが・・・
この話そのものよりも、ハイスミスのカタツムリをどうやって持って行ったかという偏愛ぶりの解説の方に度肝抜かれた。

肉詰めピーマンとマットレスは、異国でのRという息子との再会の話だ。
これが切なくて、彼女とRが日本でどういう風に暮らしてきたか、を物語りながら現在のバルセロナを見ていくというだけの物語なのに心惹きつけられたのだった。
非常に巧みな作品だと思う。

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ただ。
小川洋子の作品はその時の自分の気持ちに寄り添うかどうかというのが重要になってくるような気がする。
今回は、どれも面白いし彼女の雰囲気もよく出ている作品だけれど、全体には残念ながら今の私の気持ちにはそぐわなかったのだった。
また時を置いて読んでみたい。