2017.03.29 完璧な家


評価 4.9

郊外の豪華な邸宅にハンサムで優しく魅力的、弁護士である夫と暮らすグレース。
誰もが羨む完璧な夫婦に見えるのだが、実は・・・


一瞬ありきたりの小説、と思えるが、実はそうじゃなかった、的な小説。
そうなのだけれど、それだけではなく、読ませるのだ、この小説は。
グレースの気持ちが痛いほどわかるから、夫の鬼畜のような行動がはらはらどきどきさせるから。
読んでいて何度、本を取り落としそうになったことだろう、驚いて。
最初の方は、ジュリア・ロバーツの映画愛がこわれる時、を思ったのだが、途中からさらにこの小説は壮絶になってくる。
加速していくのだ、夫の行動が。


監禁されているわけではないのだが、監禁されているのと同様の女性がなぜ逃げないのか、逃げられないのか。
この小説を読んで、脅迫と絶え間ない言葉の数々で『無力感に襲われる』という意味がわかった気がする。
最初は抵抗して逃げようとするのだが、それがすべて奪われていたと気づく瞬間がこの小説にはいくつかあった。
ポイントポイントで逃げようと思えば逃げられた瞬間というのもまた事実あるのだ。
けれどそこで彼女は逃げられない。

最初、夫になるジャック・エンジェルは、障害のあるミリーとともに踊ってくれたりして、親代わりになってミリーを大切にして育てている姉のグレースの心をわしづかみにする。
更に結婚後一緒に住もうとまで言ってくれる。
ミリーは豊かなジャックのおかげで心地よい施設に入れてもらえる。


壮絶なサイコサスペンスだ。
ここには今のところ(小説の最後まで)は、惨殺死体もなければ、血も飛び交っていない。
でもそれを予兆させるようないくつもの出来事が実に巧妙に描かれている。
絶望、友人の前での演技、綱渡りのような二人のやり取りが、過去と現在に分かれて描かれている。
ここでとても重要なポイントになってくるのが、主人公のグレースのダウン症の妹のミリーだ。
彼女の障害の程度、が最初のうちわからないので、読者もグレースの夫と同じような感じでミリーを受け止めていると思う。
けれども、実は、というところもどきっとしたところだった。

悪魔のような夫。
それが一番怖いのは、『精神を病んでいるのは本来は夫』なのに。夫の地位と穏やかな物腰と巧妙な事前の策のために、どんなに妻が誰かに訴えようとしても、逆に『ちょっと精神が病んでいて妄想気味なのは妻の方』と受け止められてしまうところだ。
この中で一番怖かったのはそこの部分だった。
また、場面で一番怖かったのは、ホテルの隣の人に助けを求めに行く場面だ。
夢に出そうに怖い、ここは。

また、悪魔のような夫がいる、というのに周囲と接触していながら誰も気づかない。
唯一、もしかしてこの人は気づいている?と思っている新しい隣人エスターがいる。
読んでいるうちに、(エスター気付け!)とグレースと同じように願っている自分がいた。

現在と過去が交互なので、本当の後半になってこれが効いてくる。
結局、どうなったのか。
そういうもどかしい気持ちでページをめくっていったのだった。
赤の部屋と黄色の部屋、これも大きなキーワードになってくる。

以下ネタバレ
・夫は恐怖を与えてそれを楽しむという性癖があり、過去に母親をも殺していた。
そして
ミリーを恐怖に陥れて、その彼女を見たいという欲望に捕らわれる。
ミリーを手に入れるためにはまずはグレースだった。

・グレースは全てを支配されていて、言葉の一つ一つまでチェックされている。
もしジャックの意に沿わない何かがあれば、すぐさま家に戻ってからお仕置きがある(ミリーに会わせない、部屋を小さくする、食事を持ってこない、服を着せない)


・ミリーが大好きな色は黄色。
黄色の部屋も作ってある(外向きに)
しかし地下室に真っ赤な異常な部屋を作って、更には絵の得意なグレースに虐待された女性の写真を模写するように命じて、それを何個も飾っている。

・この黄色い部屋がポイントとなるのは、
最後、エスターは、気づいていたのだ、グレースが支配されていることに。
そして彼女が殺したことに。
だから、死んでいたはずの夫が手を振っていたと言ってくれた。
エスターの確信は、『確かに夫のジャックが赤い部屋を作った、ミリーのために』と言ったのに、ミリーが来たお披露目の時に『黄色い部屋をミリーが大喜びした』ということから、ジャックが死んだ後に地下室に真っ赤な部屋があったということで、繋がっていくのだった。

・ミリーは、自分が眠れないと言って睡眠薬をもらいそれをためて、グレースに渡す。
これが彼を殺すことができる原動力になった(最終的には、餓死、なのだが、彼が殺した犬と同じで