評価 4.9

私が解釈していたイヤミスとこれは違うように思ったのがまず最初だった(帯に元祖イヤミスとある)
嫌な話というよりも、人間が生きていく上での裏側の真実の話、といった印象だ。
だからいやーな気持ちには私はならなかった、こういう苦いことも人生にあるだろうと思って読んでいた。

・・・・・・・・・・・・・
ともかくも読ませる、導入部分から途中からラストまで、面白い昔話をお爺さんから聞いている子供、のような気持ちにさせてくれる。

どんでん返し的なものもある。
『的』」と書いたのは、どんでんにはなっていなくて、すれからしの読者だったら途中で(もしかして・・・)と気づくつくりになっているからだ。たとえば、切り裂きジャックがやってくる、なんかまさにそうだ。
最初の方から多分こうだろう・・・という予感がしていて、その予感を裏切ることのない結末だ。
冒頭の痛み、の作品もそうだ。
それにもかかわらず読んでしまう、読ませてしまうというのは、やはり巧いからだ、語り口が。
思わずずるずると、切り裂きジャックの話に引き込まれてしまう。
痛みの話も、病院にいる人間の半生が先生ごめんなさいという語り口とともに強烈にこちらに迫ってくる。

幻想の趣のある、影とのあいびきは、歌舞伎という日本特有の文化を語りながらも、アラビアンナイトのような不思議な世界観を作り上げている。
日本文化の歌舞伎に入れあげるナディン氏!
ちなみに、この作品、今の目で読むと差別があるとは思うものの、昭和の時代こうだったなあというのがよくわかる作品でもある。
(差別に関しては最後に断り書きがあります、この作品のみ、に対してなのかどうかはわからないけれど)

兄は復讐する、も妹の無念を晴らそうとする兄の話なのだが、これがただの小説にならないのは、
『兄の妹への執着』
が強烈だからだ。この強烈さにまず目を奪われる。
これが恋人ならわかる、また夫婦ならまだわかる、でも妹。
背徳的なにおいが遠くで醸し出されていながらも、一体妹がこうなったのは誰のせいかというのを突き止めようとした兄。
これまたラストが予想できるのだが、それでも必死の兄の様子が手に取るようにわかっていく。

妬み、も大変面白かった。
幼い頃からずうっと舞踊家を見つめてきた一人の女性がいる。
彼女が行きついた先の天才舞踊家という地位。
そしてそれを見つめてきたいわば影役の女性の鮮やかな台頭。
この二つが強烈に脳裏に焼き付く。

一番好きだったのが、かたみ、だった。
何不自由ないと見える裕福な人妻がホテルで命を絶った。
これはなぜか。
幻想的に見えて、これはラスト、あああっと唸る作品だった。
なんとも皮肉な結末だ。
かつて自分が愛していた男が出征してそのあとやむなく生きるために、年上の男性と愛のない結婚をした女性。
ひたすら虚しさを噛みしめていた女性。
彼女のもとに、軍服姿の昔の男性が戻ってきて歓喜の情を交わす・・・
幽霊譚、または幻想譚、または女性の妄想、と思わせておいて、最後の最後でベトナム戦争のことがクローズアップされてくる。ここまでの描写で、ホテルの中に多くの日本から出兵するアメリカ兵がいた、という事実も描かれている。
つまり、女性のもとに訪れたのは、アメリカ兵であってかつての恋人の幻影ではなかったというのが最後の女性の爪に入っていた金髪でわかる(その前に膣の精液でもわかるのだが、実際に交渉があったということは)