2017.04.16 月の満ち欠け


『瑠璃も玻璃も照らせば光る』

評価 5

大変面白かった。
途中で読む手が止まらなかった、一体何なのか、どうなるのだろうか、これは一体誰なのか、と。
ミステリだけれど、広義のSFっぽさもある作品だ。
時系列が並んでいないので、あとから、こうだったのか!!!という新たな視点が飛び出してくるのもとても読ませる。
あとから前のところを再読してみると、これはこういうことを言っていたんだ!という伏線らしきものも見えてくる。
どうだろう、この作品、予備知識がゼロの方が更に楽しめるのではないか。
私もほぼゼロだったのでおおいにおおいに楽しめたのだった。
佐藤正午の前作の鳩の撃退法もめちゃくちゃ面白かったが、この月の満ち欠けも私は大好きな作品になった。
このところの佐藤正午、本当に目が離せない!

冒頭では全く状況がわからない。
母子連れがいて、彼女達と話している小山内という中年の男がいる。
彼らは東京ステーションホテルの喫茶店で語り合っている。
母子の娘が「るり」という名前で、奇妙なことをたくさん口走っているのだ。
初めて会うらしい小山内という男に、どら焼きが好きだったよね、とか、コーヒーはブラックで、とか、彼の嗜好を指摘していく。
それに小山内は半信半疑という面持ちで立ち向かっている・・・・

この冒頭がまた秀逸であって、なんだなんだ?と読み手を引き付ける。
一体この三人の関係性は何なのだ?

そこから小山内堅(つよし)のここまでの人生が語られていく。
彼は同郷青森県八出身の梢という女性と大学で「偶然」会って彼女が同じ高校の後輩だということを知る→(このあたり南部藩というサークルの中の班を作って活動した描写とかがあとになって、ああ!と思う箇所)
梢と平凡な結婚をして女の子が生まれた、その名前を瑠璃と名付けた。
瑠璃が7歳の時に発熱して、それ以降彼女の様子が変わっていく・・・・


ここまでで、あ、あの種類の話・・・とおおよその見当はつく。
見当はつくし、それは当たってはいるのだけれど、ここから非常に複雑な経路を物語はたどることになる。
複層的に話が語られて行き、しかも多視点になっていくので、ある人から見た真実とある人から見た真実が異なっていくのだ。

正木瑠璃と三角哲彦(アキヒコ)の青春部分もとても良いと思った。
この当時の風俗が活写されているし(まずビデオ屋自体が懐かしいし、映画館がまだシネコンではないので勝手な席に座るところとか、ゴダール、トリュフォーを語る文学青年とか、懐かしすぎる)、惹かれあっている二人が更に更に惹かれあいお互いに慈しみあう様子が手に取るように伝わってきた。

特にラスト二章の畳みかけがすごかった。
12章のラストの方で、自分の今の状況を自問自答して東京駅で崩れ落ちる堅の姿が忘れ難い。
自問し続けてし続けて、ある一つの答えにたどり着くのだ。
ここは、読み手側のわたしにとっても思ってもみなかった事実だったのでとても驚いた。
最終章13章では、ある時間帯のある人間の行動を出している。
ここは光のある章だ、きらきらとした光に溢れているクライマックスの章だ。
最後の言葉で私はぐっと来た。

人を見分けるのに、名前もだけれど(この場合おなかの中で声を聴いたということになっている)、ある種の癖のようなものが見分ける点になってるのもわかるなあ・・・と思った。
ぺろっと舌を出す癖。
これがキーにもなっている。

ある話を信じてくれる人、くれない人が錯綜している。
普通の感覚だと信じてもらえない状況というのは痛いほどわかる。
その中で瑠璃の言うことを信じた人たちがいるのだ。

・最初の小山内瑠璃の母親、梢。
・正木瑠璃の夫。
・緑坂るりの母親緑坂ゆい。
・当の見つけられる本人の三角アキヒコ。
そして最後に納得したのが
小山内堅だった。


<以下ネタバレではないけれど内容にかなり触れるので一切のことを遮断したい人はあとで読んだ方がいいと思います。
多分ここは書かなければこの話を語れないと思うので。>


この話、転生の物語だ。
誰かが誰かに生まれ変わる、これを君は信じられるかというたぐいの話だ。
何度も生まれ変わっている一人の女性正木瑠璃が、元々は人妻であってそこで愛のない生活を夫としていて、たまたま高田馬場で貸ビデオ屋(まだビデオの時代だった)で、一人の青年、三角哲彦(あきひこ)と愛し合うということに始まっている。
心打たれるのは、道半ばで死んでしまった瑠璃が転生して、またアキヒコと会おうとするところだ、愛の物語であるのだ。

しかしタイムリープではないので、誰かの子供として生まれるしかないという設定になっている。
その間にどんどんどんどん相手側が年を取ってしまうのが悲しい。
子供と大人どころか、下手をしたらお爺さんと子供の出会いということになってしまう。
最初に正木瑠璃が生まれなおしたのは、小山内堅の子供として、だった。
何度も家出を繰り返し、当時のアキヒコ(こちらは年を順当にとっている)に会おうとするが小学生なので補導されたり止められたりする。
これを生まれ変わりと信じたのが、彼女の母親梢のみだった、父の堅は一切信じようとしないばかりか、梢の精神状態まで疑ったのだった。
そして高校生になったら行ってもいいという許可をもらった母子は、三角が当時いた場所に行こうとするところで自動車事故であえなく死んでしまう。

・1.正木瑠璃(電車で轢死)→2.転生して小山内瑠璃(自動車事故で母親とともに死亡)

一方で、最初に死んだ正木瑠璃の夫竜之介は妻が亡くなったことで衝撃を受け、仕事も失い全てに自暴自棄になっているがそのうちに小さな工務店に雇われ、そこで人生を立て直そうとする。
工務店の孫が希美(のぞみ)、希美は異常に竜之介になつくのだが、ある時を境目に彼を疎ましくする、という経緯をたどっている。
しかも彼女はもともとは瑠璃という名前を付けられるはずだったが(これも胎内にいる時に母親が聞いた言葉)、事故が起こった時だったので、祖父と父の反対にあってやめたという過去がある(これが第三の瑠璃)。
彼女はある時を境に、ここにいるのがかつての冷たい夫だということに気づくのだった。
そして彼に自分がかつての妻瑠璃だということを信じさせ、彼とともにアキヒコのところに行こうとするのだが・・・
飛び出しで、希美は死んでしまう。
そして一般的な目で見られた竜之介は、少女の誘拐という罪にさらされてしまう。
(竜之介が工事で行った小学校で既に小山内瑠璃に会っているというエピソードも秀逸、その時に年齢にそぐわない黛じゅんの歌を歌っていた。また竜之介が元々は有能な男で非常に記憶力に優れているという点も重要で、だからこそ、小山内瑠璃が自動車事故で死んだという時に反応できる)

・1.正木瑠璃(電車で轢死)→2.転生して小山内瑠璃(自動車事故で母親とともに死亡)→3.転生して小沼希美(瑠璃の名前が付けられなかったのは、2の事故が当時あったから)

そして冒頭の東京駅ステーションホテルの場面に移る。
小山内はかつての自分の娘瑠璃が描いた三角の肖像画を持ってきている。
ここにいるのは、
女優の緑坂ゆいとその娘「るり」だ。
るりは4番目の瑠璃であり、彼女も記憶を取り戻していた。
だからこそ、2番目の時に父親だった小山内の嗜好を知っていた。
更に、驚くべきことを彼女が言う。
転生は自分だけではないと。
今、小山内堅が結婚しようとしている子連れの女性がいるが、その子供がかつての妻と同じような呼び方で彼を読んでいるということを小山内は自覚する、そして諸々を考え合わせ、義理の娘がかつての梢だったということに気づき、東京駅で崩れ落ちる。
(緑坂ゆいは、かつての娘瑠璃のの同級生で親友である。るいの口から、娘瑠璃が『母親梢が語ったこと』として教えてもらったのは、彼女が小山内を高校の時から後輩として愛していて、追って東京に来たのだ、ということだった。小山内堅は初めてここで知る。)

・1.正木瑠璃(電車で轢死)→2.転生して小山内瑠璃(自動車事故で母親とともに死亡)→3.転生して小沼希美(瑠璃の名前が付けられなかったのは、2の事故が当時あったから。彼女も事故で死亡。) →4.転生して緑坂るり

最後の緑坂るりが最終章で、三角とようやく出会うというところにようやく、という気持ちで涙が出た。