評価 5

じわじわと両方の側から迫ってくるような美しく忘れ難い物語だった。
ミステリの趣もあり、前半で語られている、孤児院で兄妹が偶然聞いているラジオの場面がとても印象深いのだが、この謎が後半するっと解けていく。
盲目の少女と一人の孤児の男の子の話ではあるものの、この二人は一瞬しか邂逅しない。
その一瞬の邂逅で、二人は何かを分かち合うのだった。

物と人の出る場面との調和もバランスが良く取れている作品だ。
物は、炎の海と呼ばれるダイヤモンド、重要なことを知らせてくれるラジオ、家のミニチュアセット、そして忘れてはならないのがジュール・ヴェルヌの『海底二万里』の本だ。この本が何度も登場してこの物語の根底を支えている。
触るダイヤモンド、触るミニチュアセット、音で聞くラジオと本、と五感があらゆるところに感じられる。

章の冒頭ごとについている1934年から1944年の間の年号と日付を丹念に見ていると、今がどういう時期なのかということがわかってくる。
最初は、盲目の少女がなぜか一人で家に残されているという状況(おじさんはどこに行ったんだ!と思った。お父さんはどこに行ったんだ!と思った。盲目の少女を一人置いて)が語られて、避難しろというビラがまかれていて手には取るのだが盲目なのでそれを読むことができない状況というのが淡々と語られている。

パリの戦時下で育った盲目の少女マリー=ロールは、パリの博物館に勤める父に愛されて育っている。
父は彼女のために近所の道路と家の街のミニチュア模型を作り(これがあとになって仇となる)それを触らせて近所を教え込み、外に実際に連れ出すということをしている。
また博物館には伝説のダイヤモンドがある。
みるみる戦火は激しくなり、二人はサンマロにいる大叔父の元に身を寄せる。
一方で、孤児院で妹とともに育ったドイツに住むヴェルナーは手先が器用でラジオを組み立てることから始まり数学も独学して才能を秘めている。
彼が作ったラジオで、不思議な無線通信を聞く兄と妹・・・
彼はナチスドイツの技術兵に抜擢されてそこで過ごす日々になるのだった、妹とは離れた場所で。
そこで出会った親友が鳥の大好きなフレデリックだった・・・


ほぼ交互に二人の様子が語られている。
断片のような言葉の羅列もあって、一つ一つがとても短い。
だからそれに従ってどんどんどんどん読んでいける。
長い物語だが、読み始めたら意外にすぐに読み終えるのだった、深い感動とともに。

マリー=ロールが大叔父の家にいる様子は最初の方ではとても美しく気高く微笑ましい。
前の戦争がもとで外に出られなくなった大叔父と、家政を切り盛りしているマネック夫人の様子も手に取るようにわかり、ここには戦時下と言えども愛があり、本があり、その本で繋がっていって、読み聞かせがあり、本の世界がこの悲惨な状況をある意味救ってくれている。
それぞれの人間のマリーへの心遣い、それに対してしっかり答えていくマリーの幼いながらも人間的に成長していく様子などが如実に語られている。
しかし一転、マリーのために模型を作ろうと近所を測量していた父が捕まってから暗転していく。
必要ない電波を遮断するためにラジオの撤去が始まるが大叔父の秘密のラジオは渡さないのだ。

一方で孤児のヴェルナーはよくわからないまま、それが栄光への道と信じてナチスドイツの技術兵となっていく。
兵隊なので、そこは肉体的にも訓練されていくのだが、落ちていく生徒というのがいて、それを兎を追いかける狐のように集団で追いかける種目(ゲーム?のようになっているが)が怖い。
捕まらないで逃げおおせようとする兎役。
誰が一番弱いと思うかという上官の問いに対する答え。
ヴェルナーはある時期までは信頼しきっていた組織だが、親友のフレデリックが標的になり始める少し前から、おかしいのではないか、とやや思い始める。
が、彼はいかんせん子供なのでこのすべてを止めることができない。
このあたりのジレンマがこちらに伝わってきて、ヴェルナーの妹への手紙で、検閲で黒い部分がありすぎ本当のところは何と書いてあったのか、とそこにもぐっときた。
ヴェルナーが自分が来てしまった場所がもしかしたら違うのではないか、という逡巡が芽生えてきてしかしそれに対して何もできないという場面が大変読ませる。
フレデリックの実家に行って、母親が当時のナチスドイツ熱烈支持者で裕福な暮らしをしていてパーティーに明け暮れ、おとなしくそもそも兵士に向いていない息子の様子を全く見てあげない場面も印象に残り、これがあるからこそこの後の悲劇もまた際立っていた。

マリーとヴェルナーという二人の子供がどのように心が動いていくか。
いつもいつもある種の取捨選択がありそれをどのように決断していくのか(子供なのに。しかも少女は盲目なのに)
どのように自分の心の中で全てをこなしていくのか。
その結果、二人とも年齢より大人になっていく成長具合をこの小説で読み取ることができた。

後半、マリーの父に預けられた炎の海と呼ばれる伝説のダイヤモンドを求めて、ドイツの下士官がやってくる。
彼の名前はフォン・ルンペルで、彼がとうとうマリーのいる家にまでやってくるところは息をもつかせぬ緊迫感に満ちていた。
そしてここでも大叔父の隠されていたラジオが役に立つ。

最後、登場人物の中で生き残った人たちのその後、が描かれている。
この部分も非常に思いのこもったその後、であった。
あれだけヴェルナーが心を砕いていた妹ユッタの戦時中のその後、もまた悲しみに満ちたものだったが、最後に光を見出してくれたような気がしたのだった。

(表紙はロバート・キャパ)