2017.05.08 象と耳鳴り


評価 5

再読。
いい意味の初期の恩田陸らしさが、ぎゅっと濃色されて入っている短編集だ。
こういう話、好きだなあ・・・と思った。
途中途中出てくる、いつものような薀蓄話ですら光を放っている。
この話、関根多佳雄という元判事が色々な年代でどの話にも登場してくる。
また息子の春(しゅん)も出てくるし、娘の夏も出てくる(二人の子供も法曹界に属している)
恩田陸作品を読んでいくと、この人たち関根一族が色々なところに顔を出している。
たとえば、デビュー作の六番目の小夜子には高校生の関根秋が出てくる。
つまり関根家は、春、夏、秋の三人兄妹であり、父が多佳雄で母が桃代という設定になっている。
多佳雄は、元判事でありながら、ミステリマニアであるので、この話がとても面白いのも魅力の一つになっていると思う。

何かのミステリをある事件で思い出す・・・ハリー・ケメルマンの9マイルでは遠すぎるを非常に巧みに背景に使った、待合室の光景、など、一つの会話の違和感から行われようとしている犯罪を見破る、というのが優れている。
新・D坂の殺人事件は、タイトルからすぐにわかるように乱歩小説からなのだが、新たな時代のD坂が道玄坂であり、そこでの落下事件が何が引き金になったのかというのがきちんと伏線で描かれている→キャンペーンガールでとても騒がしい状況であったというのが描かれていて、だからこそ、携帯を持っている人が一斉に移動して、一斉に移動したからこそ一斉に大量の電波が流れ、心臓に負担のある人に負荷がかかったという因果関係。

給水塔は、不気味な終わり方で締めくくられている、さて真相とは?と思わせられる。
これもまた乱歩のパノラマ島奇談をモチーフにして東京の不思議が語られているのだ。

そして、タイトルの象と耳鳴り。
なんて魅力的なタイトルなんだろう。
このタイトル、を思いついたところでもう価値があり、また老婦人の独り言に近い語り口の怖い話が前半を盛り上げ、後半でコーヒー店店主が真相を明かす。
しかし、ここに一つの疑問が読者にも主人公にも投げかけられるのだ、ではなぜ?なぜここにあれがある→なぜ象に恐怖を持つ夫人が来ることがわかっていながら象の置物が置いてあるのだろうか。
一つの話の裏側というのを考えされる一編だ。

往復書簡も面白く読んだ。
関根多佳雄と新聞社に入った姪との手紙のやり取りだけで、多佳雄が姪の危険を察知する。
文章の端々を読み込んでいくのが魅力的だ。