2017.05.10 愚者の毒


評価 4.9

大変面白く一気に読んだ。
この人初めて読んだ人!と思い込んでいたら、経歴を見ていて、(あ!るんびにの子供の人だ!読んでいた!)というのに気づいた。
ただ、あちらは怪異を描き出している話だったが、こちらは完全なミステリになっている。
あまり恵まれていない人生の二人の女性の話を過去の陰惨な出来事から開いていく・・・

ミステリとして、すれた疑り深い読者の私は二つ、こうだろうなあ・・・と予測したことがあって、それは二つとも当たっていた。
→でもそれが、面白さを半減したかというと語り口が読ませるので、どんどんページをめくっていって、やっぱり!!という気持ちが爽快感さえ感じさせられる。
悪のキャラクターだけではなく、ここに清涼剤のようなキャラクターの元中学校教師の難波先生がいるからだろう。
彼が途中で語る、愚者の毒についての話はとてもとても心に響いたのだった(そのあとの展開を読んでいくと更にこれが深まる)
彼さえ、私は(このいい人の仮面の下に・・・)と疑っていたが、ここは違っていた・・・
そして、予測が当たっていたと言っている私も、最後の最後はわからなかった、まさかこういう・・・

・・・・
前半は2015年の老人ホームで一人の老婦人そこにが訪ねてくる夫もいて、病を得ながらもそれなりに幸せに暮らしている、という部分と、1985年の二人の女性が出会う職安という部分が交互に出てくる。
交互と言っても、1985年の方が圧倒的に多いのだけれど。

職安で二人の女性が取り違えられた。
そのミスから二人の女性葉子(ようこ)と希美(きみ)は急速に親しくなる。
彼女たちは偶然同じ生年月日だった。
そして、希美の紹介で、ある裕福な旧家のお手伝いさんとして雇われることになった葉子。
葉子には、両親が死んで寡黙症になって言葉を発さない4歳の甥達也がいた。
その家には、元中学校教師の難波先生がいて、彼が親身に達也に話しかけてくれる。
また、希美と幼馴染という独身の由起男がいて、彼も達也を可愛がってくれる、いつしか葉子は大きな会社の社長である由起男に心を寄せていく・・・


由起男の登場の仕方が実に独特である。
彼は、元中学校教師の死んだ奥さんの最初の結婚で手放した子供だった。
彼を探し当て、再び奥さんは安らかな時を経て、亡くなったのだった。
由起夫は、物静かだが非常に頭が良く、会社経営を任されても堂々とそれを軌道に乗せさらに発展させていく才覚があるのだ。
一見覇気がないように見える由起夫が夜中の電話で呼び出され、いつも床を離れることを知った葉子は、ひそかに彼に愛する人がいるのではないかと疑心暗鬼になる・・・

何しろここに行きつくまでの葉子の生い立ちが悲惨である。
結局金貸しから夜逃げしてしかも血がつながってるとはいえ、愛情が薄い甥の達也を背負って生きていかねばならない苛立ちが常に彼女にはある。
彼女と謎めいた美人の希美の友情にも目を奪われる。
希美の素性はよくわからないのだが、葉子をハコと呼ぶなど二人の間はいつも温かいものに満ちていて、笑いに溢れているのだ。

一章の終わりで、あれ?と思う。
一体この後どうなったのか。
これは何だったのか?
全員が焦ったのは何だったのか?

・・・
そして第二章。
がらっと筑豊の場所に場面が変わる。
悲惨以外の何物でもない炭鉱が廃坑になった場所で生き延びる術をどうにか身につけ、頭のおかしくなった父を抱え弟妹を抱えていく極貧の中でけなげに毎日を生きる一人の少女の話が出てくる。
読んでいてあまりに悲惨な状況なので胸が塞がれる。
そしえtここで、(あ!やっぱり!)と思うのだ、これは隠された彼女の話だと。
そしてそれは途中で明かされる、彼女の本当の名前とともに。
更にここでもう一人も登場し、更に更に多分もう一人も(ここも読んでいると想像がつく)

また急展開があり・・・

・・・・
第三章は東京に出てからと、真相が全てある一人の人物の視点で描かれていく。
ああ・・・だからだったのか。
だから逃れられなかったのか。

この話、悪人が悪をする、という部分も勿論あるのだが、悪人ではなくある事態が起こってやむを得ず悪人になってしまう悲しい人間のさが、のようなところを描いていると思った。

(全く内容とは関係ないけれど。
表紙が暗く地味で(二人の学生はいいんだけど色合いが・・・あとカラスは確かに重要だけれど・・・)、しかもこのタイトル。手に取りづらいとは思う。
タイトルの意味が分かってからは、このタイトル以外にあり得ないし、なんていいタイトルとは思うものの。
なんだか惜しい、とても面白い作品なのに。)

以下ネタバレ
・極貧の筑豊の場所で、殺人をやむを得ず犯した二人。
ユウ(由起夫)は、自分の実の父で金貸しのどうしようもない男を殺し
希美(のぞみとこの時代は言っていた)は、自分の実の狂った父を殺し
二人とも陰惨な殺人者だったのだ。やむを得なかったとはいえ。
そしてユウが殺したのをこの時代に筑豊にいたのちの加藤弁護士が見ていた。
それをもとに脅迫されて、ユウは、『偽者』に成りすまし、義理のお父さんの難波先生の前に現れる。
ちなみに、難波先生はこのことはとっくにわかっていたのだが、知らない振りを最後までした。
☆もしかして由起夫がなりすましかもしれないというのはわかるところ(よくミステリであるので)

・夜中に由起夫に電話をして助けてと言っていたのは希美。
彼女は加藤弁護士の言いなりになるしかなかったのだった、肉体的にも。
☆呼び出しが希美というのもわかるところ。この二人が男女の関係っぽくないのだが、どういう関係か、何か強烈な結びつきがあるかというのがわかるところ。

・加藤弁護士は、難波先生を閉塞した空間を作って殺してしまう。
しかし、これを葉子は誰かの仕業と見抜き、由起夫ではないか、と思ったのだった。
そして物言わぬ達也にこのことをつぶやくのだった(これがのちに達也が由起夫を殺す遠因になる)

・最後、加藤弁護士の車に乗り込んでしまった葉子。
由起夫は車に仕掛けをしていたので、慌てるのだがもう遅い。
そして葉子も加藤弁護士も死んでしまう。

・そして葉子にそのまま成りすますのが、希美。
なので、老人ホームにいるのは、一瞬最初の方で葉子と思えるが、最後になって希美だとわかる(葉子と名乗っているけれど)
☆ここは初期に割合わかるところ。

・最後老人ホームで働いていて成長して養子にやられていた達也が渡部さんとして登場する。
これはわからなかったところ。
何しろ緘黙していた子供なので、今普通以上にしゃべっている渡部さん、というのが目くらましになっていた。