2017.05.10 蠅の王


評価 5

新訳というので新たな目で読んでみた。
とても読みやすく、最初から最後までどきどきしながら読んだのだった。
解説にもあるように非常に多くの深い読み方ができる一冊だ。

記憶違いのところがあって、無人島に子供たちが生き残っているのだが、これが、私の記憶の中では船が沈んでこの子たちが流れ着いたと思っていた。
違った、飛行機が不時着しているのだ、しかも、これって、ただの状況ではなく、核戦争が起こって疎開(!)するイギリスの子供たちがたどり着いた先の島、ということなのだ。
話の中にも共産圏とか政治的な言葉が出てくる。

大人のいない暮らし。
最初の方で不安ながらもなんとなく皆がわくわくしているのが手に取るようにわかる。
特にリーダーの二人、ラルフとジャックは二人が手を取り合い仲良くなって笑いながら島を探検したりする。
この二人、後半崩れていくが、最初の方ではとてもとても気が合う二人で理解できそうな二人なのだ。
ここに太った眼鏡のピギーがいる。
ピギーはあだ名で絶対にそれを言わないでとラルフに頼むのだが、彼は簡単に皆にピギーとばらしてしまう。
だから全員がピギーと呼ぶようになってしまう・・・

読み終わってから、ピギーを侮っていたのはジャックもラルフも一緒じゃないかなあと思った、少なくとも初期は(後半はピギーはラルフ側なのでかけがえのない常識のある男の子になっていて、ジャックは最初から最後まで馬鹿にし続けている)
いわゆる格好いい系の男の子のラルフとジャック。
学校でいえば(島も大きな意味では学校になる)級長クラスの二人だ。
それに対して地味なピギーは、なんだか揶揄される方向の人間であり、しかも叔母さんに育てられたという複雑な出自を明かしている。
ぴかぴかの出自を持っていて見栄えのする格好いいラルフとジャックに対して、ちょっと落ちているという感じのピギーなのだ。
でも。
途中で彼の才能、頭の良さが際立ってくる。
彼の言うことはいちいちもっともであり、発言の機会が与えられるほら貝を取って彼が話すことはこの世界でとても重要なことだ。
それにもかかわらず、見かけから彼はなんだか皆から軽視される。

煙を出すことに執着しなんとか海を渡る船に自分たちを発見してもらおうとする努力のラルフ。
一方で煙よりも目先の豚の捕獲に走るジャック。
この二人の対決が見物だ。
また堕ちていく、というか自らの野蛮性に目覚めていくジャックの放埓ぶりも読んでいてどきどきする。
仲間を募って豚を追い込んでいき、それを焼いて食べさせ、どんどんリーダーになっていくジャックがいる。
そこには、助けられようという頭が消えている。
ただひたすら、豚を追い込んでいくのだがその姿が徐々に狂気に満ちてきて、豚を追い込むことよりも自分の本能の残虐性を目覚めさせた、といった感じだ。


また、サイモンが最初から不思議な存在感だ。
ずうっと不思議な存在であり、妙に子供にしては落ち着いている。
彼が森の中で対峙する蠅の王の部分は誠に読み甲斐があった部分だった。
そして結局彼のみが、もしかしてこの島に怪物がいるのかもしれないということの真相を知っていたのに・・・それははかなく消えてしまう。

この島は、食べ物はあり(果物ではあるものの)、外敵もいなくて(途中でいるという疑心暗鬼に駆られているが)、しかも水も適度に雨が降ってくれ川があるという、生きていくには比較的生きていきやすい場所だ。
普通の無人島ではこうはいかないだろう。
しかもこの間誰も病気にもならないし、怪我もある時点まではしていない。
だから普通に生きていこう、普通に煙をたいて統率されたまま食べ物を取って生きていこうとすればそれは生きていける島、だったのだ。
でもここで豚を殺して肉を食べたいという皆の欲求を満たしていくのが、ジャックだ。
そして最初にラルフが隊長になったのにも関わらず、ジャックが徐々に勢力を伸ばしていく、焼いた豚の威力を借りながら。
ジャックが段々凶暴化していくのが止められないところもぞくっとするし、周りの子供たちが感化されて野蛮人になりきっていくところも読ませる。
豚を追い詰めて殺すことに夢中になる子供たち。
そして、ついには・・・

・・・・
この話、最後のところは前に読んだ時と同じ感想だった。
泣けるのだ、最後の最後で、読む側も。
そこまでちょっとぞくっとしたり、色々深読みしたり、思いは複雑なのだが、最後の最後、あることで泣けるのだ。

今回新訳になって読みやすくはなったけれど、一点、最初に人物表がほしい。
これだけ読みやすいのだから、人物表があれば更に読む人のすそ野が広がるものを、そこが惜しい。

以下ネタバレ
・ジャックがサイモンを殺してしまう、豚を殺したのと同じように。
そちら側の子供が全員狂気に捕らわれていくさまが読ませる。

・ピギーはがげ下に落ちて死んでしまう。
惜しい、この子はもっと使えた子供だったのに、使いようによっては。

・最後の最後、私が泣けるのは

今まで、自分たちで何とか気を張ってやってきた大人びたラルフが、大人がそこに助けにやってきた最後になって、わんわん泣き出す子供らしい行動を示すところだったのだ。
ここまで泣かなかったのに。
泣きたくても泣けなかったのに。
小さな子供たちは泣いたり飛んだりしていたけれど、隊長さんのラルフは全くそれができなかった。
身も世もなく泣くラルフの姿に当惑して海の方を向く大人の姿も印象的だった。