2017.05.17 ifの悲劇



評価 4.9

仰天した。心底仰天した。
これが、『絶対にだまされる!』の大きな文字の帯がついているけれど、本当に騙された・・・ああ・・してやられた・・・
読み返し必至の作品だった。
しかも帯には続いて
『殺人を犯した男の人生が、ふたつに分岐していく。
驚天動地のパラレルワールドミステリ!』
という惹句もある。
そうなのだ、この話、パラレルワールドの話で、一つの話は
「犯行直後に目撃者を殺した場合」であり
もう一つは
「犯行直後に目撃者を殺さなかった場合」
というA面とB面に分かれている。

最初のプロローグでそこのところは作者おぼしき人が出版社の編集者とのんびりとこのパラレルワールドミステリについて語る、という部分が、実話のように書かれている。
そして始まった話・・・
これがまたえぐい。
なぜなら近親相姦や(同性愛(こちらはたいしたことがないが)を扱っているから。
しかもご丁寧なことに、主人公が妹とその禁忌を犯す、だけではなく、別の個所にもある人がそういうことで生まれた、という二つの近親相姦なのだ。

小説家の加納。
愛する(この愛は妹への愛を超えて男女の愛でもある)妹の自殺に疑問を感じて調べていた。
そのうちに、妹の婚約者奥津の浮気が原因だということに激怒する。
そして奥津を呼び出して殺害、ところが偽装工作をして帰る途中で、加納の運転する車の目の前に男性が飛び出してきて・・・


ここからなのだ。
Aは、その男性をひき殺してしまった場合。
Bは、その男性をひかずに済んだ場合。
これを読んでいくと、Aのひき殺した方が、その死体の処理は面倒なものの、あとからとても楽な感じが漂ってくる。
一方Bの方は、ここに殺人犯の加納がいてはまずいのにそれを目撃した面倒な人物が徘徊することになってこちらはかなりかなり面倒なことに巻き込まれていく。

この話の中で、妹の彩が意外に男にだらしない女だということも判明して、兄の加納は衝撃を受けたりする部分も面白い。
誰でもオッケーな女、都合の良い女、が妹だと知って衝撃ではあるのだが、加納自身が禁忌を犯して妹と結ばれているのでそこを責めるわけにはいかない。
加えて妹の婚約者の奥津にも深い事情があるというのが深くわかってくるのだった。

そしてラスト、Bが終わった。
私はここで、(ああ・・えぐい話の割には単純に終わったのね・・・)と思ったら、エピローグの衝撃が待っていて・・・
ただ。
この真相は、非常によく出来てはいるものの、同時に細部がとてもわかりにくい。
あ!そうだったのか!と思っても、もう一度照らし合わせるぐらいのことをしないと頭の中が混沌としてくる。
だからさくっとはわからない真相なのだ(表面上はさくっとわかるのだが、細かいところが、え?となる)
ちょこちょこ違和感を感じていて、更に、最後の方のB部分でたくさんの傍点が文字についている。
ここで、え?と思ったりしていたのだが・・・

以下ネタバレ
・A面
30年前の1986年に近親相姦を兄としていた加納彩は飛び降り自殺してしまう。
彼女の当時の婚約者が奥津行彦。
奥津は養子縁組で奥津家に入ったのだった。
奥津もまた近親相姦で生まれた男であった(実母の名前はリン)
奥津には婚約直前に付き合っていた琴奈という女性がいた。
琴奈の両親が『奥津が近親相姦で生まれた』というのを知り破談にさせた。
そして琴奈に屋上から突き落とされ殺された加納彩。    ★琴奈→加納彩を殺す
(この殺しを奥津は実母リンが訪ねてきたときに告白する)

加納彩の小説家の兄加納は、奥津を殺してしまう、妹を殺した人間だと思って。★兄→奥津を殺す
しかし夕張のアパートから網走に戻る途中で、猪澤(奥津の脅迫者で、彩のファン)を轢き殺してしまう。★兄→猪澤を轢き殺す
(のちに、この猪澤が奥津行彦を殺した殺人犯と警察に誤認され、それがもとで猪澤の父親が登場することになる)
ばれずに逮捕されずに兄は桃子という女性と結婚する。
二人の間にできた女の子に彩という名前を付ける。

・B面
1.琴奈は、彩を殺害したので逮捕された。
その時に奥津の子供を産んでその時に死亡、生れたのは双子。
兄卓也は琴奈の実家に引き取られ、弟進也は奥津の家(ここは実際には血がつながっていない孫)に引き取られる(どちらも孫にあたる。琴奈も奥津もこの時点でいないのだが)
この時点で、奥津進也が生まれることになる。
これを奥津行彦の生みの親リン(つまり双子の本当の祖母の一人)は把握している。

2.卓也はこのあと、もてあまされ養子に出されてしまう。
そしてぐれた道に入った卓也は、自分が殺人の被害者の父親(奥津)と、犯罪者の母親(琴奈)の間に生まれたことを知る。
そしてリンと卓也は親密になった。
リンは奥津が加納兄に殺されたことを卓也に告げ、復讐を決意させる。

3.卓也は加納兄を破滅させるために加納の娘の『彩』に接触する。
そして彩と結婚。婿養子になり、加納卓也になる。
そして加納兄の小説の営業サポートをする。

4.2016年になっても復讐が始まらないので
リン(奥津の実母)が業を煮やして、今度は弟の進也に接触する。
(進也は同性愛者で当時付き合っていた人が鈴木太郎だった)
そして卓也は進也を殺してしまう。 
更に本来の目的である、自分の父親を殺した加納兄を殺す。

 ★加納卓也→ 進也を殺す 鈴木太郎は自死するが死体を解体、加納兄(義理の父)を殺す
(30年前の父のトリックと同じの車トリックを最初の方で使う。)


・・・・・・・・・・・・・・・
AとBと二つの面でパラレルワールドと思って読んでいるのだが、最後になってこれがパラレルワールドではなく、
きわめて似た状況の時制が違う話、である、ということがわかる。
時制トリック、名前トリック、双子トリックがトリプルで仕掛けられている。

・まず時制。
途中の奥津の部屋には床下収納がない、とか(Aであったはず・・・と違和感)
二人組の刑事の一人和泉が若かった方のはずなのに中年、とか(Aでそうであったはず・・・と違和感)
キーになる夕張のバーMの雰囲気が変わっているとか(Aでは若い人たちがたむろしていた場所のはず・・・と違和感)

があるように、AとBには30年の時が流れている。

・人の名前
ここがややこしいが、上にも書いたように
・加納は二人。
加納豪(作家で筆名は花田欽也)がA面
加納卓也(変遷を経た後、上の作家の娘彩と結婚して婿になり加納姓に)がB面

・奥津も二人。
奥津行彦がA面の奥津(近親相姦で生まれた男で、加納豪の妹の彩と婚約していた男)
奥津進也がB面の奥津(上の奥津が婚約前に付き合っていた女性琴奈が生んだ双子の片割れ)

・双子トリックについては
卓也は車内に残ったDNAが一卵性双生児は同じ、
Nシステムも顔が同じだから通り抜けられる、と思って犯罪に使おうとしたが、進也の指紋が消えてしまった。

何度も顔を見た、とか
同性愛の進也の相手の鈴木太郎から思いを寄せられたりとか(顔が同じなので)
そこここに双子の伏線がある。
また、A面の最後の方(192ページ)で、はっきりと琴奈が子供が生まれる前で男の双子と記載されている。だから双子トリックはアンフェアではない。