2017.05.21 無限の書



評価 4.8

面白い、特に中盤のあたりが面白い。
話がSFあり、ファンタジーあり、一冊の本の謎あり、アラジンの魔術の話のようなところあり、イスラム文化へのあれこれ、現代的なハッキング、と多くの側面を持って語られていくので一気に読ませる。
更には、本当の男女の愛とは、の恋愛のあれこれをも語ってくれている。
現実と思えば、ファンタジー魔法の世界、ここと思えばまた現実、と目まぐるしく場面も変わっていく。
後半、現実の体制が崩壊し、ネットの世界もあれこれとあり、映画のインセプションを喚起させられた。

けれど、後半(砂漠に投げ出されて魔界の後)あまりにどたばたっとしていないか。
また最初の方で高貴な女性の人と交わるのだが、その高貴な女性の姿が全く見えなくなるのはいかがなものか。
この人の人となりの魅力がよくわからないまま、知的で美しく物を知ってる住む世界の違う高貴な人、というのでずうっと通しているけれども。
また、私はサイバーパンクが苦手な方なので、これとアラビアンナイトが融合したこの話、ちょっとばかり乗れなかった部分も多かった。
アラビアンナイト部分は面白いには違いないのだが・・・(だから中盤あたりは面白い)


・・・・

中東の砂漠に囲まれたシティと呼ばれる専制国家で暮らしている青年アリフ。
彼は23才でありハッカーとして暮らしている、資産家の父の第二夫人の母とともに。母はインド人である。
混血なので彼の将来は何もないに等しい。
しかし、ネットの世界の中では彼は非常に高く評価されている。
そんな彼が、現実である高貴な女性と知り合い一夜を共にする。
ところが・・・


身分差がある世界というのがまず大前提になっている。
格差社会ということだ。
そして更にここに追い打ちをかけるように、中東なので女性は高貴な人たちは黒いベールを顔にかけている。
(ここで黒いベールをかけなくてもいい貧民のダイナがかけているところがとても可愛いし、この女の子の将来的な賢さに繋がっている)
女性の地位もおのずと低いのが結婚を勝手に親にきめられる、処女性が重要視されるというところでよくわかる(これは現実にリンクしているのだろう)

アリフが恋人にいきなり別れを告げられて、彼女から不思議な一冊の古書を渡されたというところから物語が展開していく。
アリフが政府保安局の検閲官ハンドに追っ手を差し向けられるところから攻防が始まる。
攻防と言っても最初のうち、アリフが逃げるのみなのだが・・・
そこに物語の世界の身と思っていたジンが出てきて彼を助け始める・・・


この中でアリフと同じく幼い頃から貧困の中で育ってきたダイナの一途な感じがかわいらしくて際立っていた。
後半逃げる時に彼女が賢いんだ、というところを何度も見せる。
最初の方で、高貴な人と結ばれていて彼女に熱中していたアリフが、徐々にダイナに惹かれていく姿も好ましい。

また一緒に逃げて助けてくれるヴィクラムも異様な姿をしているものの、誠実なジン(幽精)だ。
彼がいたからこそ全員が助かることにもなるのだ。
逃げ込んだモスクで偶然会ったピラル師の高潔な姿も忘れ難い。
更には、もうだめかと思った時に、のんきな(と見える)王子様が(本物の第何王子)、拷問されていた牢にやってきて、(この人はネットの中の一人で体制側に自分はいるけれど、実は反体制なのだ、という人)救出してくれる場面も読ませるのだ。

民衆のうねりというのが解説にあるようにアラブの春などを思わせた。
このあと、を知ってる現実の私としてはとても複雑な気持ちになるのだが。


本の中の言葉、そこに究極の知識があるという設定は、ネットの仮想世界と本の現実世界を繋げる意味で面白い試みだと思う。
ところで、アリフというのはハンドルで、ずうっと何が本当の名前なんだろうと思っていたら最後の最後で、モハンマド、ということがわかる。
ああっ!だから名前をハンドルにして自分の本名で呼ばれるのをかたくなに拒んだのか!とここで納得したのだった。(モハンマドはイスラム教の預言者)
(クルアーンというのが多分コーランのことだろうというのは文章の中で予想がついたけれど、文章中に註が欲しいと思った)