『ミステリの形や手法をとった効果で読者の心に食い込む小説はたくさんある。
また精緻な作り物以上のものでなかったとしてもそれを生み出したのは人間だから、
優れたミステリの中には<人間という存在の面白さ>がみっしり詰まっていると考えている。』


評価 5(とびぬけ)


これまた連載時(日経新聞)から楽しみにしていて、早く一冊になれ!と思っていた本。
期待にたがわず、というかそれ以上で一冊を読んでみると、有栖川有栖の選んだ『ミステリ国の人々』の『らしさ』が際立っていた本だった。
読んでいてわくわくしていて、ミステリにいる住人と仲良くなった気すらしてきた。
ミステリガイドだけれど、大上段に構えたものではなく、それこそ初心者からちょっとうるさい熟練者まで魅了してくれる一冊だと思った。
しかも、いわゆる名探偵のみの列挙(前半でホームズ、後半でポワロとかクイーンは出てくるにせよ。助手、家族、被害者も出てくる)ではなく(そもそも、ミステリ国の名探偵、ではんくミステリ国の人々、なのだから、周辺の人でもオッケー)、これは誰だっけ?というような人もいる。
たとえば、スコット・ヘンダーソンって誰?と思った、何度も読んでいるにもかかわらず、しかも主人公にもかかわらず。
それほど影の薄い名作『幻の女』の主人公だ。
これを読みながら、そうだそうだ、彼の描写が少ないんだなあ・・・と改めて思ったのだった。大した男ではないんです、という言葉に大爆笑、確かにそうだ、事件に巻き込まれてしまうが彼自身は大した男ではない・・・

柳川とし子(大誘拐)はすぐにわかった、とし子刀自だ!と。
痛快なこの作品、ネタバレがあったら悲しいなあと思っていたがそこは有栖川有栖、
『刀自がそのような行動をとった理由は、それは書けません』
と思い切り読者をひきつけておいて突き放す。
この絶妙な感じが素敵だ。

コーデリア・グレイ(女には向かない職業)が、けなげにやっていく初心者の女性の自立と心の成長話、と私は思っていたのだが、継承の話、という、ダルグリッシュに光を当てた解釈もとても心に響いた。そうか継承の話でもあるのか。

読んでいない本もたくさんあるので、ぜひ読んでみたいものだ。
またオッターモール氏の手、は私は退屈と思ったのだが、この解説されている視点でもう一度読んでみたいものだ。

・・・・・・
ヴァン・ダインーS.S.ヴァン・ダイン『グリーン家殺人事件』『僧正殺人事件』/シャーロック・ホームズーコナン・ドイル/松下研三ー高木彬光/明智文代ー江戸川乱歩/スコット・ヘンダーソンーウィリアム・アイリッシュ『幻の女』/アリスーウィリアム・アイリッシュ『消えた花嫁』/金田一耕助ー横溝正史/三原紀一ー松本清張『点と線』『時間の習俗』/黒後家蜘蛛の会ーアイザック・アシモフ/サッカレイ・フィンージョン・スラデック『黒い霊気』『見えないグリーン』〔ほか〕