2017.06.12 夜の谷を行く


評価 4.9


面白い・・・そして息が詰まるほどのめり込む・・・ページをめくる手が止まらない・・・
あさま山荘事件で有名な連合赤軍で刑に服した一人の女性の物語だ。
彼女はひっそりと生きている、誰の目にもつかないように。
しかし過去はどこからともなくひたひたと追って来るのだった・・・・

総括という名前でセンセーショナルな取り上げ方をされた当時のあさま山荘にいた人たち。
彼らがどうして集ったか。
どうして妊婦まで巻き込んでの惨劇になったか。
そして、この主人公はどのような生き方を余儀なくされたのか。
当時のテロリストの家族たちはどういうことになっていたのか。
その他の人たちはどうやってその後、を生きていたのか。
一体、あさま山荘で実際に行われたことは何だったのか。
小説とはいえ、ここに一つの答えが提示されているのだと思った。

啓子はかつて連合赤軍の仲間だった。
永田に目をかけられていて、彼女は爆弾をもってアメリカの基地に侵入し実際に爆破してきたのだ、被害は小さかったとはいえ。
そして啓子は刑に服し、いまはひたすら目立たぬようにひっそりと暮らしている。
そんな啓子は、一時期絶交していた妹とも何とか連絡を取り合い妹の子供(つまり啓子の姪)の結婚を楽しみにしていた。
折も折、かつての仲間の千代治から連絡があり、インタビューしたいというジャーナリスト古市の紹介がある。
そこからかつての仲間が今どうしているかということがほどけていくのだった・・・


最後私は全く予想していなかったので驚いた驚いた!
こんなことがあるとは!

最初嫌がっていた過去の千代治からの連絡を徐々に受け入れていく啓子の気持ちがひしひしとわかった。
青春時代を共にした友人というのにはあまりに過酷な状況だったが、同志の気持ちというのは消えていないだろう。
一方で、啓子の犯した罪により、啓子の両親また啓子の妹の結婚までに及ぼされた影響はあまりに大きい。
姪の結婚式でサイパンに行く、というのも、実は危ないというのがわかって、どこまでもどこまでも罪は追ってくるのだ、と啓子とともに私も痛切にここは思ったのだった。

また、啓子の視点とか考え方と、当時一緒にいた仲間(同志)と、微妙なずれがあるのがわかる。
それは一緒に山荘から逃げたはずの佐紀子(今は農家の主婦になっている)と再会した時もそうだったし、当時20歳の金村邦子の目から見た啓子はもっともっと違う啓子に見えている。
この物語、自分がそうであったはずの自分、と、周りが見ている自分との相違に気づく物語でもある。
それは忘れている部分も勿論あるのだが、当時は気づかなかった皆の考え方、皆が自分をどう思っていたのかという新たな部分がばっと噴出して啓子の目の前に提示されていくのだ。

なぜ山岳ベースに行ったのか、という答えを邦子は、
次の革命戦士を育てたかったから、
という言葉で語り始める、最後の方にある手紙の中で。
だからこそ子連れがいた、おなかに子供がいる人がいた、という説明にもなっているのだ。
そして啓子が永田に実に近い女だったという認識を邦子は示す。
そしてあの凄惨なリンチでしかなかった総括を、永田に近い啓子だったら止められたのではなかったのかという考えも示す。

・・・・
啓子は大好きな姪にもこのことを打ち明けざるを得ない状況に陥る。
姪ははっきりと彼女をテロリストだと認識する。

そして、この物語、最大のことが最後まで隠れている・・・・

全体は非常に面白く読んだ。
ただ、ドキュメンタリーではなく、小説なので、この啓子という主人公は架空らしい。
そこは架空だが事件は本当、そして永田や森など実名も多々出てくる、このあたりがちょっと腑に落ちない感じがした。
また姪の話はこれで終わりなのか。
妹ともこれで終わりなのか。
これだけ厳しい状況なのか。
さらに、スポーツジムで似ている人がいると話しかけてきた人はこれで終わりなのか。
こうしてびくびく生きていくということを言いたかったのか。

以下ネタバレ
・啓子の最大の隠されたこと、忘れたいこと、は

子供を産んで養子にしていたということ

だった。
総括で妊婦を殺したという罪悪感から、自分で育てる気持ちになれなかったのだ。

それが彼女にインタビューしたいといった最初のジャーナリスト古市だった。